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川端裕人/竜とわれらの時代 [雑記]

今日は珍しく(初めてかな)、本の話です。

竜とわれらの時代 (徳間文庫)

竜とわれらの時代 (徳間文庫)

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 文庫

先日、近所の図書館へ行こうと思った道すがら、ふと古本屋に立ち寄り約30分、「収穫は無さそうだな…」と思って、あからさまに何も買わずに帰るのもナンだなあとタイミングを計っていたところ、この本が目に止まり、飛びつくように買ってしまいました。(で、堂々と帰りました。ははは。)出会いというのは、いつも不思議なものですね。

 

息子の恐竜好きに付き合って家族で福井・石川の恐竜サイトへ旅行したのはもう6年前、福井恐竜博物館が開館した翌年のことでした(上の写真はそのときのスナップ)。そしてこの本が単行本として発刊された翌2002年は、幕張メッセで大恐竜博が久しぶりに行われた年であり(目玉は大型竜脚類のセイスモサウルス)、恐竜ブームが沸き起こっていました。その後も恐竜博は主催者を変えて毎年のように行われていますが、恐竜研究は、おもに中国での発掘によって大きく変動しながら現在に至っているようです。ありがちな話ですが、息子の興味も長ずるにしたがって次第に恐竜から離れ、ずっと続けていた新聞記事の切り抜きもいつの間にかやらなくなっていることに気がついたのは最近でした。

さて、ざっとあらすじを紹介しますと、高校生の兄弟と兄の同級生の女の子の3人が、川岸の地層から化石を発掘するところから物語は始まります。兄は長じて古生物学を専攻して、アメリカの有名な教授の研究室の大学院生となり、教授のスタッフを使ってその地層の本格的な発掘を行い、世界最大の恐竜の全身骨格を発掘します。が、何者かによって、発掘された骨格が一夜のうちに盗まれてしまいます。そうこうするうちに、教授の研究室も爆破され、教授が行方不明になりますが、ネットでコミュニケーションが取れるようになり、発掘は続きます。

ただ化石を発掘するだけのストーリーではなく、化石で村を潤そうとする村役場で広報担当になる兄の同級生、農作業の傍らボランティアとして発掘現場で働く弟、兄弟の年老いた祖母、ジャーナリストで、原発の事故を追いかけていた父、兄の担当教授や研究室仲間の学生やスタッフ、近隣の自治体の役場の面々など、多彩な登場人物が、恐竜化石を狂言回しとして、原子力発電、宗教(キリスト教やイスラム教の原理主義-本書は"911"をまたいで執筆されています)、民間信仰、町・村興しなどさまざまなテーマで絡み合ってきます。紆余曲折を経て最後には、発掘された化石群を中心に、近隣の3自治体で2つの巨大展示を作ったイベントが催されるのですが、その開会からとんでもないことが起こります。

この本は発刊当時、恐竜フリークの間で非常に話題になったものでした。いわく、「最初の恐竜小説」。著者の川端氏は決して「恐竜少年」ではなかったようですが、当時の最先端情報の綿密な取材を積み重ねたようで、冒頭の、高校生たちが化石を掘り出すくだりから、恐竜ファンの心をくすぐる、かなりリアリティに富んだ設定・内容になっています。日本中の恐竜少年の憧れ、国立科学博物館の真鍋さんが巻末に寄稿していることも、科学的な権威の裏づけとなっているのでしょう。

しかし上記のように、本書のテーマは決して恐竜(古生物学)だけではなく、宗教、原発=核問題、日本の民間信仰、アメリカのアメリカたる所以、大学の研究室や学会(英語だとsocietyですね)を軸とした研究者の社会、などなど、盛りだくさんの切り口を組み合わせて、無数のエピソードがひとつの大きな流れに収斂するべく組み立てられています。

日本語に不慣れな登場人物の話す日本語が、非常に英語的なので、ずっと「これ、英訳したらいいんじゃないか」と思いながら読んでいましたが、クライマックスからエピローグを読むと、西欧的な、ある種断定的な結末では必ずしもなく、かなり曖昧さを残した終わり方は、やはり日本語でないと(もっと言ってしまえば、日本の民俗文化の知識が多少なりとも無いと)共感するのは難しいかもしれない、と感じました。

上述のように、単なる恐竜少年が読むには盛りだくさんすぎ、だいいち長すぎる(文庫版で、解説も入れると800ページ以上)でしょう。恐竜好きだった自分を覚えている学生さんや20代の方、あるいは「恐竜大好きっ子」の親が、おもな読者層になりそうに思います。恐竜に一度も興味を持ったことの無い人が読むのは大変かもしれませんが、私のような「似非恐竜フリーク」でも楽しく読めました。反面、扱う主題が多すぎて、いろいろなところで中途半端になってしまっている感は否めません。主人公も、兄なのか弟なのか、はたまた女の子かおばあさんか、よくわからないところがあります。

何はともあれ、恐竜や古生物学に興味があれば一読の価値はあるでしょう。願わくば、この延長線上に位置づけられる著作が、同じ作者からでも別の方からでも出てくるとうれしいのですが、難しいかな。


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