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Puccini/Turandot2a [オペラ]

第2幕第1場は、主役級はお休み。その代わりに例の大臣3人組、ピン、パン、ポンが、儀式の準備を始めようとしますが、これまでなぞに挑戦して命を落とした王子たちや、自分たちの故郷の思い出、もしトゥーランドットが結婚したら、など、次々に話がひろがっていくシーンです。

今回ご紹介する録音は、これ。私の刷り込みなので、いいたいことがたくさんあります(笑)

プッチーニ:トゥーランドット

プッチーニ:トゥーランドット

  • アーティスト: リィチャレッリ(カーティア), ウィーン国立歌劇場合唱団, ウィーン少年合唱団, ヘンドリックス(バーバラ), ライモンディ(ルッジェロ), ホーニク(ゴットフリート), ニムスゲルン(ジークムント), アライサ(フランシスコ), パルモ(ピエロ・デ), ドミンゴ(プラシド)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1997/04/09
  • メディア: CD

ジャケットがかっこいいのになあ…。ちょっと違いますが、輸入盤の抜粋盤のリンクも張っておきます。

Puccini;Turandot

Puccini;Turandot

  • アーティスト: Gottfried Hornik, Ruggero Raimondi, Giacomo Puccini, Herbert von Karajan, Katia Ricciarelli, Barbara Hendricks, Piero de Palma, Plácido Domingo, Heinz Zednik
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • メディア: CD

カラヤン晩年の1981年5月のデジタル録音。主役級は、カラフがプラシード・ドミンゴ、リューがバーバラ・ヘンドリクス、そしてタイトル・ロールをカーティア・リッチャレッリが歌っています。個人的には、この中ではドミンゴが好きです。前半の向こう見ず加減と、後半、謎を解いてからのトゥーランドットをあやつる巧みさが、それぞれよく出ていると思います。

この盤の特徴はいくつかありますが、主なものは以下の3点でしょうか。
1. カラヤンが、舞台にかけずに録音した。
2.
タイトル・ロールをリリコのリッチャレッリが歌っている。
3. ウィーン・フィルの録音である。

カラヤンがオペラの録音をする際には、ステージでのプロダクションを手がけ、その前後で録音するのを常としていました。しかし「トゥーランドット」だけは、ステージ・プロダクションをまったく行わず、この録音だけを行っています。さらに、カラヤンは少なくともウィーン国立歌劇場に就任した1955年以降、この曲を歌劇場で振っていません。だからといって、全然なじみが無いかというと、決してそんなことはなかったようです。

同じ年、小澤征爾がパリ・オペラ座でこの曲を指揮しています。このときカラヤンは小澤と、こんな内容の話をしたそうです。「君は以前、もっと小さい劇場でこの曲を振ったことがあるかね?」「いいえ、ここが初めてです。」「そうか、それは残念だ。もっと小さいところで十分振ってからこういう大劇場で振るのがよいのだが。」一般的な話をしたのでしょうが、カラヤンはこの曲の大変さを熟知している、と言っているようにも聞こえます。きっとカラヤンは、1950年前後、アーヘンなどの歌劇場にいた時分に、みっちりこの曲を勉強していたのではないでしょうか。

もうひとつのエピソードはこの録音のときの話です。8日間のセッション中、この曲は一度も通して演奏されなかったそうです。ヘンドリックス(だったかな?)が、「今回は本当に全部やったかどうかわからない」と感想を漏らしていたそうです。また、ほんの数分しか歌わない役人役のニムスゲルンが、カラヤンの要求で、何度か飛行機で往復させられた、とも言われています。カラヤンの中ではもうすっかり音楽が出来上がっていて、それを今日はここ、明日はあそこというように音にしていき、プレイバックを聞いては自分のイメージと照らし合わせていったのでしょう。

まったくの余談ですが、このLPが出た当時、「GRC」(だったと思います…)という、DGG専門の小冊子を2ヶ月に1回、ポリドールが発行していました。こういった「録音こぼれ話」のようなものも載っており(現物が無いので、上のエピソードは記憶にたよって書きました。間違いがあったら申し訳ありません)、なかなか楽しめました。購読料がどの程度か忘れましたが、微々たるものだったと思います。録音が次々と行われていたからこういう企画もできたわけで、優雅な時代だったのですね。

さて2番目、強靭さを要求されるはずのトゥーランドット役に、軽い声の、叙情的な役が合うはずのリッチャレッリを起用したことは、当初から話題になっていました。本来リューが役どころであるはずのリッチャレッリ(マゼール盤では実際に歌っています)ですから、確かに第2幕などでは多少苦しそうなところも無いわけではありません。しかしそのぶん、終幕で愛に目覚めるところなどは柔らかい表情で、とろけるようです。このプロダクションは、彼女のトゥーランドットによって、全体の雰囲気がやわらかく、しっとりとした表情になっており、それがカラヤンの意図したところなのでしょう。
前回も書いたとおり、この曲はオーケストラが非常に雄弁で色彩的です。そしてウィーン・フィルが、豊かで壮麗な音を奏でているのが、この録音のもうひとつの大きな特徴です。プッチーニなのですから、スカラ座とか、ローマとかのオーケストラのほうが合いそうなものですが、これを聴くとやはりウィーン・フィルは「別格」であると感じてしまいます。よく聞くと細かいアンサンブルはけっこうアバウトなところもあるのですが、全体の雰囲気、全奏と弱音との対比、各楽器のソロや重奏の音色など、まるでオーケストラ曲のように華麗に聞かせてくれます。
実はこの録音、全体的に遅いテンポで、他の録音を聴いたことがあると、最初は違和感があるでしょう。歌手もオーケストラもけっこう大変だと思います。しかしその分、アリアは切々と聴けますし、クライマックスの盛り上がりは類を見ません。
さて音楽は、第2幕の最初も強烈な不協音程で始まります。3拍子の3つの下降音形は、和音がEb-Db-Aの各長和音で、これだけでもすごいのですが、さらにバスは7度下の(すなわち、半音ずれた)E-D-Bbで重なります。ピンの歌の最初もA-Ebで、無調的な響きのまましばらく進み、やがてD-F-G-A-Cの五音音階に落ち着きます。
ところで、この3大臣はPing(宰相)、Pang(大膳職)、Pong(料理頭)で、日本人(のある世代以上の人たち)にはおなじみの幼児番組のタイトルとの類似性がよく指摘されます。そのタイトルと同じように列挙すると、「順番が違う」と指摘されることがままありますね。確かにCDなどの表記はここで書いた順番になっていることが多いようです。スコアのフロント・ページもこの順番なのですが、スコアの本編(楽譜)は、上からPing、Pong、Pangの順になっています。
正確な理由はわかりませんが、Pongのほうが声域は高いため、同じテナーのPongとPangではPongを上に持って来ているのかな、と思います。いずれにせよ、3人の中ではバリトンでリーダー格のPingが一番上にあって、これだけヘ音記号で書いてあるので(通常テナーはト音記号でオクターブ高く表記)、ぱっと見たとき読めません。大譜表の「上がト音記号、下がヘ音記号」が染み付いているのですねー(^^;
3人の掛け合いの部分はいささか冗長に過ぎるとプッチーニは思ったのか、3箇所のカット可能な箇所を指定しています。ここを演奏しているのは、私が知っている限りではカラヤン盤とメータのデッカ盤くらいです。私はカットなしで聞き覚えてしまったので、最初はカットに違和感がありました。ちなみに今回の公演は「カットあり」で演奏します。個人的には、長い方が好きです(^^
弱音器つきのバンダがファンファーレ風の音形を吹き始めると、3人が現実に引き戻され、第2場=謎解きの場への場面転換になります。宮殿前の広場に群集が集まり、賢者たちが入場、3大臣も正装となって再登場して、皇帝をたたえます。バンダに導かれて皇帝が登場、弱々しく王子の挑戦をやめさせようとしますが、王子は3度、挑戦を要求し、最後に皇帝が「よろしいE sia!」というと、群集が「皇帝万歳」と歌い、役人が再び登場、第1幕の前半とまったく同じ口上(全体に短くなり、オーケストレイションも微妙に違います)を述べます。
弱々しい、高齢の皇帝は、年のいったテナーが受け持つことが多いそうです。カラヤン盤で皇帝を歌うピエロ・デ・パルマは、前回ご紹介したモリナーリ=プラデッリ盤や、メータのデッカ盤ではポンを務めていました。前者ではペルシャの王子も歌っています。
このあと、トゥーランドットの登場直前に子供たちが歌う旋律、第1幕でも出てきていました。解説などでは「東天紅」と書かれていますが、中国では「茉莉花Mòlìhuā」として非常によく知られているようです。「ジャスミンの花」ですね。サビの部分まで原曲にあるそうです。
茉莉花~中国のうた

茉莉花~中国のうた

  • アーティスト: 崔岩光, 久邇之宜, 馬可, チン・インチョン, リゥー・ジーホン, ユー・ミン, ユー・シァンワー, チェン・イェンジュエン, クワン・チョン, マークー, 黄白
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 1995/05/24
  • メディア: CD
日本語でも「まつりばな」という題で歌詞が付いているそうです。他にも中国の曲が使われていますが、「蝶々夫人」における日本の旋律同様、原曲の歌詞にはおかまいなしに使われているようです。プッチーニにとってみればあくまで音素材なわけで、原曲との関係についてあれこれいうのは野暮と言うものでしょう。
次回はいよいよ、トゥーランドット登場です。
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コメント 4

ようちゃん

こんばんは。
今回ご紹介のCD、私も持っておりました。そこで今、慌てて聴きながら、コメント書いています(とは言え、まだ第一幕の冒頭部分です。)。
このCDに今回ご紹介のエピソードがあったんですね。

>日本人(のある世代以上の人たち)にはおなじみの幼児番組とタイトルとの類>似性
ハイ、私もこのおなじみのタイトルで、完全に「Ping、Pong、Pang」で覚えていました。

前回コメントさせていただいた変拍子も含め、やはりスコア持ってないと駄目ですね。

いろいろ勉強になります。次回のトゥーランドットの楽しみです。
by ようちゃん (2006-08-15 00:57) 

stbh

ようちゃん さん、ご来訪ありがとうございます。カラヤン盤をお持ちでしたか。ウィーン・フィルのゴージャスな音をはじめ、「音楽」として聴くには、好きです。スコアは、一緒に出る人がリコルディに問い合わせたら、「在庫は無い!重版しない!」と言われた(たぶんメールでしょう)とのことでした。今年、日本で出せばいくらでも売れるのに、何と商売っ気のない!
3大臣の順番、昔は私も拘っていたのですが、最近年をとったせいか、だんだんどうでもよくなって…。最初がPing(宰相-いちばんえらいはず)ならいいんじゃないでしょうか。この3人のせりふ、けっこうきわどいことも言っているのですよね。シリアスな部分との強烈な対比がよいです。
by stbh (2006-08-15 18:17) 

サンフランシスコ人

昔、バーバラ・ヘンドリクスをフィラデルフィアの日本料理店で目撃しました。
by サンフランシスコ人 (2009-01-03 03:33) 

stbh

コンサートに来ていたのでしょうか。それにしても、サンフランシスコ人さんは貴重な体験をたくさんなさっておられますね!
by stbh (2009-01-03 16:31) 

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