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Honegger/Pacific231 [管弦楽曲]

今回は短い曲を。

フランス六人組(プーランク、オネゲル、ミヨー、デュレ、タイユフェール、オーリック)というのは、評論家のアンリ・コレという人が6人の若手作曲家をひとからげにして呼んだものらしいです。急速に変化する1920年前後のフランス音楽界の中で、印象主義などとは一線を画し、単純でわかりやすい音楽を目指した人たち、というのが六人組なのだそうですが、その中にあってスイス出身のオネゲルは、六人組の他の作曲家と較べて明らかに重い、重厚な音楽を作っています。

オネゲルの作品でまず名作という人が多いのは、大作「火刑台上のジャンヌ・ダルク」でしょうか。でも「いちばん有名な曲」ならきっと、蒸気機関車の名前がついた"Pacific 231"ですね。全部で3曲あるMouvement symphoniqueというシリーズの第1作です。このシリーズは1923年"Pacific"、1928年"Rugby"(ラグビー)、1933年No.3(副題無し)と5年おきに作曲されています。

聴いたCDはこれ↓です。Mouvement symphonique全3曲と交響曲第2番、交響詩「夏の牧歌」、小品の連作「モノパルティータ」が入っています。最初は「ラグビー」、最後が"Pacific"で、残りの曲が曰くありげな順番で入っています。なぜ交響曲が最初や最後じゃないのだろうとか、疑問はいろいろあるのですが、まずはご紹介。

オネゲル:交響的運動 Pacific231

オネゲル:交響的運動 Pacific231

  • アーティスト: ジンマン(デイヴィッド), チューリヒ・トーンハレ管弦楽団, オネゲル, キストラー(ヘルベルト)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1999/06/02
  • メディア: CD

でも、1996年録音、1999年発売というのに廃盤のようでごめんなさい。私が持っているのは例によって輸入版ですが、アマゾンの検索にすら引っかかりませんでした。最近は本当にサイクルが短いですね。ぱっと何千枚か(何万枚か?このCDはそんなにたくさん作らないかな)作って終わり。まあレコードより原盤の保管は楽(空間、重さ、再製作の手間など)なので、廉価盤としての再発売も容易になっています。そのうち1000円とか1500円とかで出てくるのを望みましょう。

さて"Pacific 231"がアルバムの最後を飾り、かつタイトルになっているのは、やはり有名だからでしょうか。ジャケットも蒸気機関車の絵や写真です。ご存知の方も多いと思いますが、「231」は

機関車の車軸の数が、前輪2、動輪3、後輪1であることからついている識別番号のようなものです。

このジャケット、下のほうに白い細い線で同心円がいくつか描かれていて、何だと思ってよくよく見ると、同じ大きさのものが右から2個、3個、1個、…おう、車輪か!こういう隠し味的なデザインセンスは好きですね。ただしジャケット全体の出来は、機関車の絵がただ大きさを変えていくつもペーストしてあったりして、これはいまいちなのですが。

さて曲は、重いゆっくりしたリズムで始まり、だんだん速く、大きくなり、疾走となります。そして一定になったリズムにさまざまな楽想が絡んでは消え、最後はだんだん遅くなってトゥッティのユニゾンで曲が終わります…

というのを聴いたら、誰だって「この曲は、パシフィック231型の機関車が走り出し、次第に速度を増して全速力で疾走する様子を表している」といわれれば信じるでしょう、ふつう。しかしオネゲルは言っています(意訳)。

「この曲は、(上の説明)と言われていますが、それは私の目的ではありません。私は、非常に抽象的でとても理論的なコンセプトを考えていたのです。音楽の運動そのものが遅くなるのと同時に、リズムが算術的に加速されたときの印象です。(中略)私は最初、この曲を「交響的運動(Mouvement Symphonique)」と名前をつけましたが、見直すと、いささか色彩感に欠けると思いました。そのとき突然、かなりロマンティックなアイデアを思いついたのです。そして曲が完成したとき、私は"Pacific 231"という表題をこの曲につけたのです。これは重い荷物を引き、高速で走る蒸気機関車のことなのです。」

つまり、テンポ(♪=100とか)をだんだん遅くすると同時に、リズムをだんだん細かくする(八分音符→3連符→十六分音符→5連符→…)ことによって、なめらかな加速を表わす音楽的実験をMouvement Symphoniqueと名づけたのですね。この題名も交響的「運動」か「楽章」かという議論がありますが、音の「動き」の実験をした作品ととらえれば、「運動」でよいのかな、と思います。

上の発言をしたのと同じ機会に、オネゲルは他の"Mouvement Symphonique"についても言及しています。第2番について、自分はサッカーも好きだがラグビーはもっと好きで、サッカーが科学的なのに対して、ラグビーはもっと直接的で自然に近い、とか、第3番は副題がなかったのでおざなりの評価しかしてもらえなかったが、自分自身も批評家であり、自分の仕事の悪口を言いたくない、とか。

第3番に関するコメントは、"Pacific"に対して批評家たちが動力伝達軸、ピストンの騒音、ブレーキの摩擦、蒸気の放出、前輪の揺れ、などなど、だらだらとことこまかに説明をつけていたことを揶揄して言っているものです。この曲にわかりやすい題名をつけたおかげであっという間に(描写音楽として)人気曲になってしまったのを、自省もこめて、多少、苦々しく思っていたのかもしれませんね。

☆11/9追記

今朝のFMでこの曲をやっていたのですが、「交響的楽章」と呼ばれていましたね。またその解説で、オネゲルが「私は、他の人が女性や馬を愛するように機関車を愛する」「この曲は、機関車が動き出し、次第に加速して疾走する様子を表現している」などとコメントしている、と放送されていました。

たぶん、曲の構想は機関車に関係なくあって、結果的に自分の好きな機関車の動きにピタリとはまったので、こういう題をつけ、上記のような説明をした(ときもあった)、ということなのかな、と想像しました。まあ、言い方はいろいろある、ということでご勘弁を。

なお、今日の放送の演奏はミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ歌劇場管弦楽団(楽団名ちょっとあやしいです)によるものでしたが、あまり重々しくなく、あっさりした感じでした。こういう描写的な曲でも、解釈によって印象がガラリと変わるのが、クラシックの面白いところですね。


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コメント 2

すっかり「この曲は、パシフィック231型の機関車が走り出し、次第に速度を増して全速力で疾走する様子を表している」と思っていました。オネゲルって難しいこと考えてたんですね。
by (2005-10-16 23:40) 

stbh

もともとの構想は純音楽的だったのでしょうが、こういう名前をつけておいて「いや、実は自分の意図とは違う」というのもなんだかなあ、という気がします。でも例えば、まったくの想像ですが、もし「ここの3つの音形が3本の動力軸を表わしているのだ」とかいう評論があったら、オネゲルとしては苦笑せざるを得ないでしょうね。
by stbh (2005-10-17 00:45) 

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