アマデウス・ソサイエティー管弦楽団第40回演奏会 [実演]
サントリーホールで行われた、こちらの演奏会を聴きに行きました。
アマデウス・ソサイエティー管弦楽団
合唱:一音入魂合唱団
指揮:曽我大介
R.シュトラウス アルプス交響曲
ワーグナー:ジークフリート牧歌
ワーグナー:ニュルンベルクのマイスタージンガーより
第1幕前奏曲と冒頭の合唱~第3幕フィナーレ
ワーグナー:ローエングリンより
第3幕の前奏曲~結婚行進曲~第2幕エルザの大聖堂への入場からフィナーレ
http://amadeussociety.web.fc2.com/
ワーグナーが前半(上記の曲順)、後半がアルプス交響曲。終了まで約2時間半の、大演奏会でした。
1曲目のジークフリート牧歌は、本日の曲の中で唯一、小編成の曲ですが、1stVnが4プルトと弦楽器が多めで演奏されました。最初のpから豊かな響き、これはこれで心地よいです。早めのテンポにより、耳慣れた主題が織りなすアンサンブルは、オペラの滔々たる流れより緊密で、「オペラの縮小版」というより各楽器の組み合わせの妙を楽しむ「室内楽作品」であるという印象を持ちました。
そして曲のクライマックスに差し掛かると、「どこにいるんだろう?」と思っていたトランペット奏者が、突如オルガン席の横に登場!12小節を朗々と吹き鳴らし、近くのドアから退場して行きました。もちろん楽譜にそんな指示はありませんが、なかなか面白い演出ですね(^_^) 静寂の中に曲が閉じられると、一呼吸置いて暖かい拍手。
2曲目のマイスターと3曲目のローエングリンは、いずれも前奏曲とそれに続く合唱、そして接続曲風に切れ目なく終幕の合唱へつながる構成でした。舞台後方のP席に合唱が陣取りますが人数は(特に男声が)やや少なめ。声は出ていましたし上手でしたが、ffになるとちょっとオーケストラに負けるかも。また2曲ともオルガンが活躍し、さらにバンダ(実際には「舞台上で」と指示されている)の管・打楽器がいろいろ出てきて見た目も華やかです。
マイスター第1幕の前奏曲はお馴染みですが、最後にオルガンのブリッジで合唱に入っていくオペラの始まりを生で聴く機会は、オペラに行かない限りなかなかありません。個人的にマイスターを最初に聴いたとき、このオルガンの響きで一気にオペラの世界(教会のシーン)へ入っていく構成が気に入り、レコードの1面だけ何度も聴いたものでした。この合唱と、全幕の最後の合唱をつなげて演奏するのは、「前奏曲の拡大版」みたいな感じなので違和感なく聴けますね。バンダの金管も大勢入り、華やかな演奏でした。
ローエングリンはこれも華麗な第3幕の前奏曲から一転、粛々として清々しい「結婚行進曲」への流れ。オペラでは木管・金管とトライアングルが「舞台上」と「ピット」と2組配置され、交互に演奏するように指定されています。今回は前の曲と同様、「舞台上」の編成がオルガン席と同じフロアに1列に配置され、空間的にも楽しめるようになっていました。広いところに横1列に並ぶというのは、周囲の音が聞こえにくくて合わせるのがたいへんなのですが、そんなことは微塵も感じさせない良いアンサンブルであったと思います。そして今度は、第2幕最後の、これもオルガンが活躍する合唱でシメ。合唱団も盛大な拍手を受けていました。うーん、これだけオペラの曲を聴くと、やっぱり全曲聴きたく(見たく)なるなあ(^_^;
ここまででたっぷり1時間、前プロとしてはなかなかへヴィーでしたが、後半はリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」、通称「アルペン」。彼の多くの大規模な管弦楽作品は30代前半までに書かれているものが多く、40代以降の創作は主にオペラに充てられているのですが、この曲は例外的に50歳前後に作曲されています。初期のオペラ、「サロメ」や「エレクトラ」は大編成のオーケストラが活躍するのですが、その後のオペラはだんだんオーケストラの響きが整理されていっているように感じられます。この曲も編成は大きい(楽譜の指示通りだと150人必要とか)のですが、例えば「ドンファン」や「ティル」にくらべるとアンサンブルは簡潔で、もちろん大編成を生かして大盛り上がりな部分もあるものの、室内楽的な緊密な響きが求められる(一番最初、弦の各パートが4部に分かれているなど)ところも多くあり、彼の作品としては特別な位置づけにあると思います。
さて能書きはともかく、演奏に話を移しましょう。何かトラブルがあったのか、チューニングから指揮者が出てきて曲の開始までしばらく間が空きましたが(ヴァイオリンの方が出入りしたのは弦が切れたかなにかだと思いますが、それ以外にも原因があったのでは?)、変ロ音のユニゾンから変ロ短調の下降スケールで音が広がり、曲が始まりました。前半の曲と同様、基本的な解釈は早めのイン・テンポですっきりしており、登山時のいろいろな情景がストレートに入ってくる、聴きやすい演奏でした(まあ、もともとそういう曲なのですが、いっそう)。ホルンの何人かはバンダ(この曲では舞台裏)で演奏するために出たり入ったり。
最初の夜-夜明けから頂上まで、森、滝、牧場、氷河といろいろな場面がつぎつぎに出てくるさまは、まるで映画を見ているようです。本番の演奏中はこういう場面場面で「ああ、もうここを演奏するのも最後だなあ」と思うことがよくあります。今回の皆さんも、ひとつひとつの場面を慈しみ、楽しんで演奏しているように感じました。特に滝のきらめき、のどかな牧場の景色など美しかったと思います。
雄大な頂上からの景色を堪能して下山を始めると、霧が出てきて、遠くから嵐が迫ってきて、ついに雷雨になってしまいます。この情景の変化の緊迫感もなかなかのものでした。嵐のシーンで目立つ、ぐるぐる回して風の音を模擬する「ウィンドマシーン」はけっこう出ずっぱりで、pやfの指示があるものの、回す速度を変えても変わるのは音量より音高(速く回すと「ピュウウウウ」という高い音になる)なので、出る音をイメージに合わせるのはたいへんです。(たぶん)楽器を使える時間が短い中で、特性をよくつかんで演奏されていたと思います。これと並び称される、薄い金属板をくしゃくしゃさせて雷鳴を模擬する「サンダーマシン」も思い通りの音を出すのは難しい楽器。おまけに出番は一瞬(2小節と1拍)なのであっという間。今回は席のせいか、指揮者の大きい指示があって期待してしまったせいか、ちょっと音が聞こえにくかったかもしれません。
嵐が終わり、無事に下山を続けると日没。心地よい疲れが忍び寄ってくるかのように、音楽は徐々に終息に向かい、冒頭と同じ夜の音楽で曲が閉じられると、しばしの静寂のあと、割れんばかりの拍手とブラーヴォー!各奏者の中で、オルガンの人がひときわ大きい拍手を受けていたのが印象的でした(たしかに、オルガンの人がこんな大変な演奏会ってそうそう無いと思う)。ほぼ満員のお客さんの惜しみない拍手が続く中、素晴らしい演奏会だったと感じていました。
客席が明るくなり、さらに外に出るとまだ昼間だったことを思い出しました。ホールの上のガーデン(一部を除いて非公開で、年に数回だけ解放されるようです)をひとまわり。いままで気がつかなかったのですが、最初のホール入口の写真でもわかるように、ホールの上階は緑が豊富なんですね。
サントリーホールには夜来ることが多いので、ここに上がったのは実は初めてでした。このホールも出来て何十年もたちますから、緑もすっかり定着している感じでした。ときおり小雨のぱらつくあいにくの天気ではありましたが、興奮を冷ますためもあり、東京タワー周辺などを散歩して帰りました。
東京タワー、久しぶりに近くで見ましたが、やはりかっこいいですよね(^_^) 電波塔としての役割はともかく、観光名所としては十分スカイツリーと共存していけるのではないかな、と再認識しました。
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