Project B 2013 [実演]
雨上がりの3月最終日、もう桜も見納めかな、と思いつつトリトンスクエアへ向かいました。
こちらの演奏会を聴きにいきました。
"PROJECT B 2013"
http://pb13.blog.fc2.com/
「ピアニストの田中良茂さんとベートーヴェンの協奏曲を演奏する」ために発足したオーケストラだそうです。ですので、プログラムも凝っています。
まず、前半に序曲と交響曲が配され、ピアノ協奏曲がメインにすることで、この演奏会の趣旨が徹底されています。そして前半の曲は「コリオラン」「運命」と、協奏曲第3番にあわせて全部ハ短調で統一されていました。
オケのレイアウトも心配りが見えました。弦が下手から1st、チェロ、ヴィオラ、2ndと並ぶ対向配置で、チェロの後ろにコントラバス、木管後列は下手にファゴット、金管はトロンボーン、と低音を下手奥に集める配置となっていて、金管は上手にトランペット、その近くにティンパニが置かれ、こちらもグルーピングされています。なかなか珍しい配置だと思いました。
コリオランは弦のユニゾンと和音が交互に鳴り、劇的に始まります。新しいオケの名刺代わりとして、なかなかインパクトのある曲ですね。最初の弦の音から勢いが感じられる、若々しい演奏だったと思います。1stヴァイオリンが11人、決して大きい編成ではありませんが、弦楽器がよく鳴っていてほどよいバランスで聞こえてきました。
プログラムの2曲目に「運命」を聴くのは、なかなかへヴィーかなと思いましたが、「コリオラン」以上に推進力のある演奏で、ちょっとびっくりしました-といっても、私が予習にベーム/ウィーン・フィルの録音を聴いてしまったのが原因かと思いますが。ささいな事故はあったようですが、まあそれは演奏会の常。奏者の皆さんの情熱が感じられる演奏だったと思います。弦もビブラートがかかっており、古楽的ではなくグランド・オーケストラとしてのアプローチだったので、とげとげしさは無く、気持ちよく聴けました。
久しぶりに演奏会で「運命」を聴いてあらためて感じたのは、この曲の新しさです。第1楽章の「運命動機」の積み重ねによる構造はもちろん、第3楽章と第4楽章が混然一体となって輝かしいコーダへ向かう高揚感は、やはり圧倒的です。そして彩りを広げるピッコロ、コントラ、トロンボーン!チェロとコントラバスがけっこう違うことをやっているのも印象的でした。交響曲の代名詞のように捉えられるこの曲ですが、個人的には、「幻想」と並び称されてもよい野心的な実験作であると再認識しました。
そして後半のピアノ協奏曲。オーケストラの音が出だしから前半とは明らかに違い、静謐で涼やかな音色になります。ああ、曲が違うから表情を変えているのだな、と思っていたのですが、ソロが入ってきてわかったような気がしました。田中さんのピアノは、昔のベートーヴェンでよくあった重い、力強い音ではなく、澄んだ美しい音色でした。「淡麗」と言ってもいいかもしれません。決して上滑りな感じはないのですが、何というか、浮遊感のようなものがある、これまでに聴いたことのないものでした。オーケストラもこれにあわせ、極端な自己主張は控えて、ピアノに寄り添うように演奏されていたと思います。
オーケストラのアンサンブルも、協奏曲がもっとも落ち着いていたように思います。やはりこの曲を「田中さんと」演奏するために皆さんが集まったということが、よくわかりました。最後まで声を荒げず、あくまで美しさを主体においた解釈で、こんなきれいな曲だったんだ、と再認識しました。
満場の拍手に応えてのソロ・アンコールは半音上がって「月光」の第1楽章。これもアクセントなど極端な表現の少ない、美しい演奏でした。最後に協奏曲第3楽章のコーダを再度アンコールに演奏して、終演。このオケの皆さんが「田中さんと共演したい」と思う気持ちがわかったように思いました。それほど印象深い演奏でした。
主宰・指揮のHさんは数々のオーケストラで演奏してきているアマチュア・コントラバス奏者なので、彼の広い人脈によって名うてのプレイヤーたちが集まっているのでしょう。新しいオーケストラでも、しっかりしたアンサンブルで楽しませてくれました。
次回は来年の4月、ピアノ協奏曲第2番と交響曲第4番の「変ロ長調」シリーズだそうです。最後は「英雄」「皇帝」で締めくくる、という噂も聴きました。今後の演奏会も聴き逃せません。
ご来場ありがとうございます。
またこのようなご高評を賜り恐縮しております。
旗揚げ公演ということで、正直、不安・心配な点もあったのですが、オケの皆さん、聴きに来ていただいた方々のおかげで、期待以上にいい演奏会になったと思います。
来年もぜひ聞きにいらしてください。
ありがとうございました。
by Lionbass (2013-04-09 09:22)
Lionbassさん
お誘いいただきありがとうございました。楽しく拝聴いたしました。運営はたいへんだったのではないでしょうか。そのうえ指揮も、と大活躍、すばらしいですね。来年も参りますのでよろしくおねがいします。
by stbh (2013-04-12 00:15)