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Hindemith/Mathis [交響曲(独墺系)]

ヒンデミットの代表作、といっていいでしょう。私の愛聴盤は、以前、「交響的変容」で取り上げた、これ。

ヒンデミット/交響曲「画家マチス」

ヒンデミット/交響曲「画家マチス」

  • アーティスト: サンフランシスコ交響楽団, ヒンデミット, ブロムシュテット(ヘルベルト), ウォルサー(ジェラルデン)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1995/04/21
  • メディア: CD

1987年の録音ですから、かれこれ20年近く経ってしまったのですね。いまだそこそこの値段で現役というのは、それだけ人気があるということでしょうか。サンフランシスコ交響楽団(SFS)は、若き日の小沢征爾やエド・デ・ワールトなどが常任だったこともあり、ビッグ5(あるいはメジャー5:ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、ボストン、クリーブランド)の次のランク(エリート11と呼ばれ、諸説あるようですがビッグ5+ピッツバーグ、ロサンゼルス、ミネソタ、デトロイト、ヒューストンとサンフランシスコ)に位置づけられるオーケストラです。

アメリカ生まれのスウェーデン人であるブロムシュテットがSFSに着任したのが1985年、このヒンデミットはDeccaとの契約を結んだこのコンビの初CDだったと思います。このあとこのコンビは、ペール・ギュント抜粋、ニールセンの交響曲全集などの名盤を生み出していくことになります。ブルックナーやベートーヴェンなどの名録音をすでにシュターツカペレ・ドレスデンと作っていたブロムシュッテットですが、SFSとのコンビで新境地を開いていくことになる、その最初の一歩がこの録音というわけです。

交響曲「画家マチス」は、ご存知のように同名のオペラと密接に関係があります。1933年にフルトヴェングラーから管弦楽曲の依頼を受けたヒンデミットは、イーゼンハイムの祭壇画を題材にして、オペラの区切り用に4曲の前奏曲・間奏曲を作ることにしてあったため、これらの曲をまず先に作って交響曲「画家マチス」を完成したようです。なおこの初演や、その後にまつわる話はあちこちのサイトにあるので探してみてください。「ヒンデミット マチス フルトヴェングラー」だけでも十分引っかかると思います。

第1楽章「天使の奏楽」はクラリネットとホルンのやわらかいGのユニゾンに弦の和音が重なって、曲が動き出します。木管が高みに上って音が途切れると、トロンボーンが3本のユニゾンで、弦楽器を伴って"Es sungen drei Engel"を歌い始めます。これに再び木管が加わって、最初のクライマックスがやってきます。これが静まるとフルートとヴァイオリンに導かれる2/2拍子の主部。シンコペーションが特徴的な、いくつかの主要主題が対位法的に編まれていき、スネアとシンバルを伴うクライマックスまで駆け上っていきます。

いったん落ち着いてから再度、今度は2+2+3の変拍子で高潮します。弦のオクターブ上下する伴奏形に乗って、木管と(まさに天使のような)グロッケンシュピールの旋律が3度繰り返されるうちに、4度下降の金管のコラール(A-E、F-C、D-A)が重なるところは圧巻。旋律が全く同じ音程なのに、3つの和音それぞれにベストマッチのように聞こえるのがヒンデミットの魔法です。最後はB(dur)-A(moll)-G(dur)の3つの和音で終止。最後の和音に重なる打楽器が(ティンパニと)トライアングルだけ、というのも、トゥッティの和音に大太鼓やシンバルを闇雲に重ねるオーケストレーションとは一線を画しています。

第2楽章「埋葬」は、オペラの終結部のために用意された音楽だそうですが、この「交響曲」では、唯一の中間楽章になっています。特徴的なリズムを全編にわたって用いており、重苦しい感じが支配しています。ヒンデミットの緩徐楽章によくある木管のソロ、この曲ではフルートとオーボエが担当しています。

「聖アントニウスの誘惑」の第3楽章は、弦楽器の強烈なレチタティーヴォ風の音形からはじまります。そして、それに続くシャープなトゥッティ(「パパッ!」)と、拍頭に重なる打楽器のトレモロ。このパターンが何度か繰り返されたのち、9/8拍子の主題部。管楽器の伴奏にのって弦とファゴットとの粘着質な旋律が入ってきます。この9/8という拍子が曲者で、この伴奏のような「タッカタッカタッカ」というリズムは奏者によって拍の長さの感じ方が違いやすく、気を抜くと3連符だか付点だかわからないあいまいなリズムになってしまい、旋律の弱拍の動きと微妙にずれて非常に気持ち悪くなりがちです。特に大太鼓が入るあたりからクライマックスに達するまでの弦楽器は、この速さで2、5、8拍目に入るシンコペーションの難所。

その後もいろいろ仕掛けはあるのですが、基本的に対位法も和声も、バリバリのヒンデミット節。「おっ」というような和声の進行や楽器の組み合わせは、挙げだすときりがありません(^^; ここはもう、印象的な副旋律の上に乗ってくる"Lauda Sion Salvatorem"の聖歌風の旋律を経て、最後の金管のコラール"Alleluia"まで疾走する音楽に身を任せるしかないでしょう。このコラールも、そう思って聞くと「ア・レ・ル・ヤ」と歌詞がついて聞こえてくるから不思議。

 ブロムシュテット/SFSの演奏は、やや早めのテンポに乗って、非常に明快。陳腐な表現を許してもらえれば、「カリフォルニアの青い空のような」さわやかで聞きやすいものです。ブロムシュテットは菜食主義者だそうですが、脂の少ない、引き締まった演奏、とも形容できるかもしれません。

トラックバックは、この曲を来年2月に演奏するようちゃん さんの記事です。レオノーレ第3序曲、シューマンの第2交響曲とこれ、という渋い(かっこいい)プログラムです。


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コメント 4

ようちゃん

おはようございます。
いやー、拙ブログの安直な記事に、TB頂きまして、ありがとうございます。それに、本文にも、ご紹介頂きまして、大変恐縮です。
今、このブロムシュテットの演奏を聴きながら、コメントさせてもらっております。
いつも思うのですが、stbhさんの記事は、物凄く勉強になります。この曲も、こういう風に解説いただくと、今後の練習に物凄く役立ちます。
今後ともご指導のほどをお願い致しますm(。_。)m
by ようちゃん (2006-09-30 07:20) 

おさかな♪

どんな曲なのかなぁ~^^☆
楽しく読ませていただきました♪
by おさかな♪ (2006-09-30 19:11) 

stbh

ようちゃん さん、コメント、ありがとうございます。身に余るお言葉、ありがとうございます。大好きな曲なだけに、あまり冷静に書けていないように思います(^^;。
ちょっとペースが落ちてしまいましたが、更新を続けますので、どうぞまたいらしてください。
by stbh (2006-10-01 00:24) 

stbh

おさかな♪さん、ご来訪とコメントありがとうございます。マーラー好きな方ならこの曲も気に入っていただけると思います。機会がありましたらどうぞお試しください。
by stbh (2006-10-01 00:28) 

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