Tada/NakaKansuke [声楽曲]
ずいぶんと間が開いてしまいました(^^; いよいよ本格的な秋到来ですが、季節感はあまり関係なく(^^; このCDから「中勘助の詩から」を。
一口に「音楽をやっている」といっても、やっているものごと(例えばピアノ、声楽(ソロ)、器楽(ソロ)、合唱、オーケストラ、吹奏楽、マンドリン、…)にコミュニティがあって、それぞれ独特の世界を持っていますよね。オーケストラの中でも弦、木管、金管、打楽器はそれぞれ肌合いが違いますし、さらに各楽器で微妙なニュアンスがあります。
高校生になってから本格的にクラシックにめざめて合唱を始め、大学に入ってからオーケストラに参加した私にとって、合唱は、その後、実際に歌う機会はなくとも身近なものだったのですが、周囲のオケの人が合唱に対して持っている独特の雰囲気-具体的に何がどうというのは難しいですけれども-に違和感を感じたのは確かです。
さらに、合唱の中でも「男声合唱」というのは独特の世界があります。私の高校は共学でしたが、当時男子生徒の方が圧倒的に多く、男子は3年間で1回か2回は必ず「男子組」になりました。だからクラス対抗の「合唱祭」では、必ず男声合唱を体験することになります。となると、ほぼ必ず多田武彦の作品(「タダタケ」)に触れることになっていました。
男声合唱をやったことのある方で、タダタケ知らない人はいないでしょう。逆に、合唱に全く無縁の人はタダタケを知らないのではないでしょうか。銀行員を本職としながら多数の作品をつくりつづけ、日本中の男声合唱団に歌われている、男声合唱界の「聖人」のひとりではないでしょうか。男声合唱の近接音程を生かした独特の和声と、日本の数多くの詩人の叙情を歌い上げる彼の曲は、初期の作品を中心に男声合唱のコミュニティでは、早い時期からバイブル化していました。
彼の曲は、聴いて虜になる、というよりは、やはり歌ってナンボでしょう。四声と対位法的進行しかないシンプルな構造の上に、日本の抒情詩人たちのことばがいきいきと躍動するさまを、男達で共有するのが、タダタケの醍醐味だと思います。
今回のご紹介は、超有名な初期の作品群から、1958年作の「中勘助の詩から」。彼の組曲としては曲数が多く、比較的短い以下の7曲からなっています。
I 絵日傘
Aのユニゾンから和音が広がる印象的な出だし。
II 椿
タダタケの中間楽章によくある、諧謔みのある曲。
III 四十雀
この曲の中間部は全曲中でもっとも美しい部分だと思います。ここで泣けるか、クサいと思うかが好き嫌いの分かれ道かもしれません。
IV ほほじろの声
さしずめ緩徐楽章にあたる曲でしょうか。中間終止も、組曲の途中にはままあるものですね。
V かもめ
第1曲と、この曲以降はテナー・ソロが使われています。
VI ふり売り
音程の指定されない呼び声に導かれて、遠近法的に女の魚売りがやってきて、遠ざかっていきます。
VII 追羽根
原詩の散文の部分をテナー・ソロにまかせ、合唱がハミングで伴奏する前半は、珍しく叙事的・描写的な展開。後半の合唱は典型的なタダタケ節で、力強く全曲を閉じます。
この曲は対象になっていないようですが、多田武彦は改訂が多く、原詩で差別用語が使われていたものを外して別の曲と差し替えたり、原詩とあわないフレージングや歌詞配分を修正したりしています。私はこれらの改訂が行われる以前にタダタケに親しみました。当時買った「雨」「草野心平の詩から」などの初稿譜(いずれも数百円でした)は、今では宝物です。
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