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Mahler/Sym10 [交響曲(マーラー)]

マーラーの未完の交響曲として知られている第10番の全曲盤、今回はラトルの2回目、ベルリン就任直前の録音でご紹介。

 

マーラー:交響曲第10番

マーラー:交響曲第10番

  • アーティスト: ラトル(サイモン), マーラー, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 2002/10/25
  • メディア: CD

ラトルはキャリアのごく初期にこの曲(やはりクック版)を(CBSOでなく)ボーンマス交響楽団と録音しており、この曲に対する愛着、想いが感じられます。また、クック版(1976年の第1版、1989年の第2版とも)をそのまま演奏するのでなく、随所に独自の解釈をちりばめています。

この曲については、以前にもご紹介した金子建志氏の名著

マーラーの交響曲〈2〉

マーラーの交響曲〈2〉

  • 作者: 金子 建志
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 単行本

があり、第10番の項で各編曲の異同について詳細に述べられています。特にこのラトルの新録音に関しては、クック版への関与や独自の解釈について述べられています。

この録音の特徴は、非常に音楽が生き生きしていることにあると思います。私が最初に聞いた全曲版は、ウィン・モリス指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団による1973年の録音でした。(アマゾンで検索できなかったのでHMVのページです)

http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=979322

今にして思えば、失礼ながら「楽譜を忠実に音にした」レベルから、あまり高く昇ったものではなかったと思います。それから約四半世紀後のこの録音は、クック版に長く親しみ、自家薬籠中のものとして自在にあやつるラトルの実力を示す名盤だと思います。

ラトルは必ずしも「クック版の忠実な使徒」というわけではなく、かなり自由に改変しています。 その最たるものは第4楽章の最後と第5楽章の冒頭の大太鼓をひとつにまとめて、両楽章をつなげていること。マーラーのスケッチには、明らかに両方の楽章に音が書かれているので、資料に基づく限りこういった演奏はありえないはずなのですが、ラトルはあえて大太鼓を1発省略することで、2楽章をつなげ、緊張感を高めています。

これにはクック版の編者のゴールドシュミットやマシューズ兄弟たちも言及せざるを得ず、彼らによる1989年のクック第2版の序文に「ラトルはこうやっているし、マーラーもやった可能性はあるが、スケッチには明らかに音が二つあるので、他に(両楽章に大太鼓を置く以外の)選択肢は無い」とわざわざことわっており、ラトルの影響の大きさを物語っています。そもそもラトルはこれらクック版の編者と親交が深く、第2版への改訂にはかなりかかわっていたようです。

クック版は、題名"a performing version of the draft for the tenth symphony prepared by Deryck Kooke"-「デリック・クックによる第10交響曲の草稿の演奏(可能)版」が示すように、「いちおう演奏できるようにしたよ」という位置づけであり、このままで演奏されなければならない必然性は低いと思います。「完成した」といわれている作品でさえ、多くの演奏家は日常的に手を入れているわけで、特にクックが創作した「オカズ」、たとえば第2楽章の最後から2小節目のシンバルなどは、奏者の解釈しだいでどちらでもよいのではないでしょうか。

まあ個人的には、第10は第9や「大地の歌」の延長線上にあるものだと思うので、第2や第6交響曲を思い起こさせるような派手な打楽器(木琴の使用、小太鼓のロールの多用など)などには賛成できません。それでも、クック版はかなりストイックであり、もう少し冒険をしてもよいのではないかな、と感じます。むろん、ラトルのやり方に全面的に賛成するわけでもありませんが、ラトルの演奏は、生き生きとした表情という面で、群を抜いて豊かだと感じ、今回ご紹介しました。

結局、マーラーの作品はマーラーしか完成し得ないわけで、多くの人がそれぞれの「マーラー像」を反映させて、これからも多くの演奏・録音が生まれてくるでしょう。それはそれで、みんな楽しめばよいのではないかと。「好き」「嫌い」はあっても、「よい」「悪い」ということは難しいですよね。

個々の楽章や細かい部分についての記述は、今回はあえてやりません。このブログも開始からちょうど1年、今月はもっとも書きたかった2曲、この曲(時間が無くて他のヴァージョンは取り上げられませんでしたが(^^;)と「戦争レクイエム」について、主に書きました。これまでのそのほかのエントリーについても、ごらんいただいたりコメントを下さったりした皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。


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コメント 4

おさかな♪

stbhさん
 一周年、おめでとうございます~☆
 そして、1年前の初記事もマーラー10番♪
 素敵です。
 これからも楽しみにしています。
by おさかな♪ (2006-03-31 12:25) 

stbh

おさかな♪さん、いつもご来訪ありがとうございます。
マーラー第10番の全曲版、ぜひいちど聴いてみてください。マーラーがアルマに向けて、「おまえのために生き!おまえのために死ぬ!」とスコアに書いた終楽章は感動的です。
by stbh (2006-04-01 15:14) 

カシュカシュ

初めまして。
ラトルのマラ10、私も好きです。
私もクラシック音楽のCDレビューを書いていまして、
いずれこのCDのレビューも書きたいと思っています。

ところで、相互リンクしていただきたいのですが、
よろしいでしょうか。
私のブログのリンクページには既にリンクを
貼らせていただきました。
よろしくお願いします。
by カシュカシュ (2007-05-21 04:10) 

stbh

カシュカシュさん、ご来訪ありがとうございます。
とりあえず貴サイトをRSSに登録させていただきました。
マーラー、よく取り上げてらっしゃるのですね。こちらのほうは駄文で恥ずかしい限りですが、今後ともよろしくお願いいたします。
by stbh (2007-05-21 23:44) 

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