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Mahler/Sym8 [交響曲(マーラー)]

しばらくぶりのマーラーは、2回目のサイクルでとばしていた第8番を。1986年ですから、もう20年も前の録音です。

マーラー:交響曲第8番

マーラー:交響曲第8番

  • アーティスト: インバル(エリアフ), フランクフルト放送交響楽団, マーラー, ロビンソン(フェイ), カヒル(テレサ), ハイヒェレ(ヒルデガルト), ブダイ(リビア), ヘンシェル(ジェーン), リーゲル(ケネス), プライ(ヘルマン)
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2002/06/21
  • メディア: CD

 確かにジャケット裏の写真のインバルは髪の毛が多い(失礼)。しかし、日独共同による録音は今でも一級品だと思います。

第4番、第5番のような声楽のない/少ない曲は、ワンポイントで録音してもホールで聴くのとかなり近い音で再現できますが、声楽、特にこのような大合唱入りの曲だと、ホールの1点でバランスを取るのは困難でしょう。いかにそのホールのベストポジションの場所でも、大編成のすべての音と余韻がクリアに聞こえるポイントは無いように思います。

声楽が入ったり、特大編成になったりすると、物理的な音の大きさプラス心理的な大きさ(旋律を聴こうとしたり、合唱の歌詞に耳が行ったりする)の影響も大きいのではないでしょうか。インバルのマーラー第5番の録音時も、ワンポイントだけでは違和感があったため、最小限のリミックスを加えたとライナーに書いてありました。したがって、大編成の録音はエンジニアの腕の見せ所であり、そのコンセプトで音楽の聞こえ方が大きく左右されるといえるでしょう。

このインバル/フランクフルト放送交響楽団の録音は、合唱はマスの響きを大事にして、オーケストラは細部までくっきり聞こえさせるという困難な課題を、かなり高いレベルで達成していると思います。合唱団の一人一人の声が妙に分離して聞こえたり、オーケストラの中音域が不明確になったりせず、「スコアが見える」と表現される、クリアな音場になっています。

演奏も、録音に負けず明晰だと思います。きっちりとしたテンポ運び、アンサンブルの正確さは言うに及ばず、盛り上がりの前のスビト・ピアノ、ここぞというときのテンポ・ルバートなどの緊張感には、はっとさせられます。

第1楽章"Veni, creator spiritus"は20分あまりですが、冒頭のオルガンのffから最後にバンダの金管がオーケストラと合唱に合流するまでクライマックスが続く、とんでもない音楽です。個人的にマーラーの作品の中でも大好きな楽章のひとつで、これを一気に聴くとリフレッシュできます。途中で邪魔が入るとすごくゆううつになったり…。

基本は4/4拍子ですが、3や2が随所に入り、5拍子で続くところがあるなど、かなり変則的(第6番のスケルツォを思い出します)ですが、これは旋律を言葉にあわせた、というか、「言葉が生んだ旋律」がたまたまこういう拍子になっていた、ということなのではないでしょうか。「自然の発露」としての変拍子なのでしょう。

第2楽章は50分あまりをかけて「『ファウスト』の終景」を再現します。ドイツ人にとっての「ファウスト」は、日本人にとっての…、何でしょうか。「平家物語」?「方丈記」?とにかく、誰でも知っている名作(特に、現代でなく19世紀末において)であったと思います。それを大胆にも音楽にする、それも、オペラのような舞台作品でなく、「交響曲」と銘打って演奏会用作品とすることで、聴く者に、自分の中の「ファウスト」と整合させるための想像の余地を与える、という優れた着想を実現してしまうのが、マーラーの偉大なところでしょう。

曲想としては大きく3部、「アダージョ風」「スケルツォ風」「フィナーレ風」と分けることが出来ると思いますが、せっかくCD時代になって一気に聴けるようになったのですから、物語を楽しむように、時間をとって通して聴いてみたいですね。時間の無いときは最後の「神秘の合唱」だけ、という手もないわけではありませんが、物語的にも終幕に向け話が収束していくように、それまでのいろいろな音楽的な要素がだんだん緊密に組み立てられていく様子は、通して聴くことでいっそう実感できると思います。

ちなみにこのCD、トラックが2つ(各楽章)しか切ってありません。CD発売当初は大まかな切れ目はトラックで、細かい場所のしていはインデックスで、という二段構えが標準規格だったので、インデックスは多数用意されています。インデックスは面倒くさくて評判が悪く、現在はトラックを細かく切るように変わってきています。今となってはデジタル初期の試行錯誤の遺物になってしまいましたね。

またこのCD(録音)はダイナミックレンジも広く、小さい音は小さくしか聞こえません。できれば大音量のところにあわせて静かなところで聴きたいものです。車だとどうしても、音量が比較的均一な(出ずっぱりの)第1楽章をききがち。もったいないですねえ。


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コメント 12

stonez

こんばんは。
このインバル盤は、私にとっての最初の「千人」だったのですが、最近他の演奏も耳にするようになって、いかにクリアで聴きやすい演奏家を再確認したこともあり、「合唱はマスを大事にオーケストラは細部まで」、に凄く納得しました。やはり自宅でゆっくりたっぷり楽しみたいですね。
by stonez (2006-03-24 01:37) 

stbh

stonezさんこんにちは。コメントとTBありがとうございます。stonezさんも通勤時に試したのですね(^^ インバルのマーラー全集は「録音かくあるべし」というDENONスタッフの哲学の実践、そしてその最良の結果だと思います。腰を据えて対峙しなければ失礼なのは重々承知なのですが、なかなかまとまった時間が…f(^^;
by stbh (2006-03-25 17:23) 

サンフランシスコ人

今週、サンフランシスコ響が、「マーラー第8番」を演奏・録音します。

by サンフランシスコ人 (2008-11-18 03:30) 

stbh

MTTの全集がいよいよ完結ですか。
by stbh (2008-11-18 22:47) 

サンフランシスコ人

まだ、あります。

by サンフランシスコ人 (2008-11-20 06:31) 

stbh

そうですか。失礼しました。
by stbh (2008-11-20 23:52) 

サンフランシスコ人

これから「リュッケルト歌曲集」などの声楽曲の録音があります。

by サンフランシスコ人 (2008-11-21 07:43) 

stbh

あ、なるほど。歌曲も入れるのですね。楽しみですね!
by stbh (2008-11-23 21:45) 

サンフランシスコ人

未発売の「交響曲第10番 第1楽章 アダージョ」は既に、録音しています。
by サンフランシスコ人 (2008-11-24 04:32) 

stbh

第10は録音済みでしたか。全曲は入れないんですね…ちょっと残念です。
by stbh (2008-11-25 22:02) 

サンフランシスコ人

作曲家でもあるマイケル・ティルソン・トーマスは、(第10番の)第1楽章しか指揮しないみたいですね。
by サンフランシスコ人 (2008-11-26 08:31) 

stbh

バーンスタイン、シノーポリなどの作曲家はもちろん、テンシュテット、アバドなど第1楽章(協会版)しか演奏しない人の方が、まだ主流ですか。
by stbh (2008-11-29 17:52) 

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