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Britten/WarRequiem2b [声楽曲]

「ディエス・イレ」後半は、市販のディスクを聴きながらご紹介。

Britten: War Requiem

Britten: War Requiem

  • アーティスト: Thomas Hampson, Benjamin Britten, Kurt Masur, New York Philharmonic, Carol Vaness, Jerry Hadley
  • 出版社/メーカー: Teldec
  • 発売日: 1998/05/19
  • メディア: CD

このジャケットは1996年のサラエボの写真を使っています。CDが出た当時はけっこう衝撃的だったのではないでしょうか。「ブリテンの祈りは届かなかった」というのが、解説書裏表紙でニューヨークの教会の入り口に立つマズアの思いなのかもしれません。私の持っている、数少ないマズア指揮のCDのひとつです。というか、マズア=NYPはこれだけ。まあそんな乏しい聴体験であれこれ言うのは僭越なのですが。

クルト・マズア(1927-)は1970年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(メンデルスゾーンゆかりの、世界最古の管弦楽団。ちなみに世界最古の歌劇場管弦楽団はシュターツカペレ・ドレスデン)の指揮者に就任したころから頭角を現し、「東ドイツの音楽監督」のような、絶大な権力を持ちます。それが東ドイツが崩壊し西ドイツに吸収合併されるや否や、1991年に何とNYPの音楽監督の地位を得てしまいます。

「振ると拙(まず)い」という日本でのニックネームはただの言葉遊びではないと思いますが、音楽はともあれその政治力は抜群で、機を見るに敏というか、さっさと旧東独に見切りをつけメータの下で沈滞していたNYPに収まってしまう(この時期のメータのあとなら、多少下手なことをやったとしても大丈夫)あたり、並大抵の人にはできません。統一は旧東独の音楽家にとっては多難で、ケーゲルのように世をはかなんでしまった人もいるくらいでしたから、この成功(今ではイギリスやフランスも制覇してしまいました)は特筆すべきことでしょう。

さてこの録音ですが、1997年2月にNYPの本拠、エイヴリー・フィッシャー・ホールでライヴ録音されています。合唱・少年合唱はもとより、ソリスト達もアメリカ出身者でそろえているのは珍しいです。マズアはライナー・ノーツに「この曲を最初に聴いたのはケーゲル指揮ライプツィヒ放送管弦楽団の演奏であった」と記しています。さらにさかのぼれば、コヴェントリーの空襲も意識していて、この曲が聖マイケル大聖堂で初演されたことは、単に新しい曲が生まれたという以上に自分にとって重要だった、とも書かれています。

「この曲を初めて指揮するまで、それから30年以上経った」という、特別な思いを持つこの曲を、彼がどういう経緯で演奏することにしたのかは残念ながら記されていませんが、ひょっとしたらブリテン没後20年(正確には1996年)企画とかだったのかもしれません。その演奏は全体的に緩急の差を大きめに設定した、劇的なものとなっており、特にNYPの金管の熱演が光っていると思います。

こちらがピーター・ピアーズやフィッシャー=ディースカウのある種ポーカー・フェイス的な、シニカルな演奏に慣れてしまっているせいか、男性のソリストたちはちょっと表情過多というか、やりすぎではないかという印象を受けました。オーエンの詩が冷静に死と向き合った趣を持っているので、あまり悲嘆にくれるのは似合わないのではないかと感じるのですが、このあたりはそれぞれの解釈の範囲でしょう。

ただ録音は、ちょっとオンマイク過ぎてそれぞれの楽器の直接音が聞こえすぎ(特に打楽器)に感じます。最初は「おっライヴなのに鮮明じゃん」と思うのですが、だんだんうるさく、言葉は悪いけれどとげとげしく感じられてくるのです。前回のN響のライヴも、オンマイクでした。こうすると金管や打楽器など単独で大きい音のする楽器が必要以上に強調され、バランスの悪い、「溶けない」音になってしまします。

N響ライヴはもともと放送用ですからリミックスに限界があるでしょう(トップエンドのリミッターもかかっているようです)が、正規録音として発売するなら、逆にもう少し手を入れて、自然に聴けるようにしてほしかったと思います。NYPの(エイヴリー・フィッシャー・ホールの?)ぺかぺか気味の音が強調されてしまっているようで残念です。もう少しホールトーンを入れてくれると良かったかもしれないなあ…。

II Dies irae (conclusion)

まず悲しげなトランペットの和音とチェロのオクターヴの音形から、女声だけによる"Recordare"が始まります。ソプラノ・アルトがそれぞれ2部にわかれ、下から順にカノン風にだんだん盛り上がっていきます。pppまで落ちたところでいきなりテンポが上がって、バスが2部で"Confutatis"をアルペジオで歌います。次のテナーの"Oro supplex"はweeping(「泣いて」)という標語がついていて、<>が強調されています。

男声がからみながら高潮した頂点で室内オーケストラのティンパニの5連符が鳴り渡り、バリトン・ソロが「ゆっくり持ち上げよ、長く黒い腕を」とゆっくり歌います。楽章冒頭の金管のモチーフと交互に、次第に大きくなりながら歌が進み、クライマックスでファンファーレとともに混声合唱・7拍子の「ディエス・イレ」がffで帰ってきます。

「ディエス・イレ」が一段落すると次第にテンポを落とし、速度半分以下の沈うつなリズムになったところで、まず合唱が「ディエス・イレ」のリズムを模倣して、7拍子をはじめると、そこにソプラノが入ります。ここはヴェルディを模してかフラット5つの変ロ短調、いっそう悲しげに聞こえてくるから不思議です。

 "Lacrimosa"がひとしきり静まると、テナー・ソロがレシタティーヴォ風に「彼を動かせ、太陽に向かって」と歌います(ここの詩は特に難解です)。ソプラノ・混声合唱・オーケストラとテナー・室内オーケストラが交互に嘆きの言葉を交わしていきます。そしてついに鐘(C-F#)が響くと、第1曲の最後と同じように合唱がアカペラで"Pie Jesu Domine"と歌い、ヘ長調、ppppの"Amen"で終わります。

長大な楽章ではありますが、劇的な合唱・ソプラノとアイロニカルな男性独唱との対比による緊張感がだんだん増してくる構成になっています。英語の詩を読むと、いっそう息が詰まる思いがします。


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