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Beethoven/Sym5 [交響曲(独墺系)]

チャイコフスキーのところでついついベートーヴェンに話が行って、聴いてみたくなったので。

ベートーヴェン:交響曲第5番

ベートーヴェン:交響曲第5番

  • アーティスト: ジュリーニ(カルロ・マリア), ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団, ベートーヴェン, シューマン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2005/09/07
  • メディア: CD


このCD、いずれもLP時代からの名録音2曲が(「マンフレッド」は落ちているけれども)1枚におさまってこの価格、時の流れとはいえ、ちょっとあんまりな気がするくらいお買い得(^^; ジャケットは、「第5」のものが流用されています。

ベートーヴェンの第5の新しさを、先日はティンパニのチューニング(第2楽章が主音と属音でない)の面から触れましたが、これはどちらかと言えばマイナーな特徴で、はっきりわかるものがたくさんあります。

・第1楽章が「序奏」でも「第1主題」でもなく、短い「主題を形成する動機」の提示で始まる
・第3楽章から第4楽章へアタッカで続く
・第4楽章の途中で第3楽章を回想する
・第4楽章のコーダが異様に長い(C-durが55小節間続く-厳密には最後の小節はCの音だけだし、GP(全休止)の小節もあるけど)
・第4楽章でピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンを用いている(ホルンはこの曲では普通に2本)
・第3楽章のトリオで象が踊る(?)

他にも形式論などの観点から、いろいろ見つけることが出来るでしょう。とにかく、双子の「田園」と並んで、それまでの交響曲の概念を覆すような試みを盛り込んだ、古典派の枠をはみ出していこうとする、あるいははみ出している傑作であるのは、いまさら私がくどくどいうことではありません。

ジュリーニの解釈は(もう20年以上前の録音ではありますが)大編成のモダンオーケストラでの、ひとつの規範となるものだと思います。クライバーの推進力やカラヤンの流麗さ、ショルティの剛毅さやバーンスタインの熱情、さまざまな表情での演奏が可能な曲ではありますが、ここでもジュリーニの特徴を表わすのは、豊穣な歌と、マーラーのところでも述べた、確固たるテンポだと思います。

第1楽章のほとんどを支配する動機「タタタターン」が、これほどどこの楽器、どこの声部でもはっきり、大事に演奏されている録音は無いでしょう。小編成に慣らされた近年のわれわれの耳にはいささか遅く聞こえるかもしれませんが、全楽器を鳴らしきり、響かせるために必要で、かつ前進する力を決してよわめないギリギリのテンポなのではないでしょうか。LAPOの弦のしっかりした厚みが曲全体を支えています。

ジュリーニは主要動機を重要視するようです。第2主題の前の4小節半続くティンパニの八分音符は、大きさの変化の指示がないのですが最後の3つだけ大きくたたかせ、「タタタ(ターン)」を強調しています。

ジュリーニの「歌」がもっとも良く聞こえるのがこの第2楽章でしょう。長い音符(俗に「シロタマ」と呼びますが、この楽章は3/8拍子ですから長くても付点八分音符で、「シロタマ」は出てきません(^^;)は通常、動きのある他の旋律を聞かせるため弱め・抜きめに演奏するのですが、この録音では和音を形成するために長い音符も比較的良く響かせ、いっぽう旋律線も弱拍の音までしっかり出すことによってバランスをとっています。

第2楽章が始まってしばらくして21小節目、弦と木管が「チャン、チャン、チャン|チャーン」とやりますが、21小節の「チャン」は十六分音符、22小節の「チャーン」は八分音符なので、これも短3+長1の、主要動機の変形なのです。ジュリーニの演奏では音の長さの違いをはっきりと弾き分けており、聞いただけでこの動機がわかります。

第3楽章も、第1楽章と同様に決して遅いテンポでは無く、暗い響きの中にも着実に前進する音楽です。この楽章では、第4楽章へのつなぎと直前の急激なクレッシェンドが非常に難しいのですが、ジュリーニは難なく第4楽章へ入れるようなテンポ設定をし、落ち着いたテンポでぎりぎりまでpで引っ張って急激なクレッシェンドで第4楽章へ突入します。

第4楽章も落ち着いたテンポで、音符の長さがはっきりわかる、というか音符の長さどおりに演奏しています。そのため通常の演奏より音符の長短のコントラストがはっきりわかり、遅いテンポでも鋭いリズムのおかげでだれることがありません。また内声を比較的良く鳴らすことにより、普段聞き逃してしまいそうな伴奏や対旋律をしっかり聞かせてくれます。コーダまで徒にテンポをあおることなく、くっきりと非常に見通しの良い音楽を作り続けます。

「メータが育て、ジュリーニが鳴らす」といわれたLAPOも、しっとりとした、それでいて明快なサウンドでジュリーニの音楽にしっかりと応えており、彼らの代表盤のひとつといって過言ではないでしょう。

最近はオリジナル楽器での演奏も定着し、複数の新校訂版が出るなど、曲の実像が変わりつつあるベートーヴェンの交響曲ですが、モダンオーケストラにとっても重要なレパートリーであることに変わりは無く、交響曲史上に輝く九連星であり、やはり第5はその中央で燦然ときらめいていると思います。

最後になりましたが、TBは例によってmozart1889さんです。いつも的確な表現で、暖かな視点が読んでいてほっとします。


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コメント 6

mozart1889

こんにちは。
ジュリーニ/ロスPOのベートーヴェンは、今もよく取り出しては聴いています。特にこの「運命」は素晴らしいですね。堂々として恰幅がよく、しかもよく歌うベートーヴェン。
ジュリーニならではの名演だと思いますし、オケがとても頑張っているのが印象的でした。
ご紹介いただき恐縮です。
by mozart1889 (2006-01-11 11:51) 

stbh

mozart1889さん、こちらこそいつもありがとうございます。ジュリーニとLAPOの録音、特に弦楽合奏の重厚な響きがすばらしいです。ベートーヴェン、シューマン、ブラームスという独墺系主流派ともいえる交響曲を、どっしりと量感をもって聴かせてくれますね。フレージングや楽器間のバランスなど、より若い頃や最晩年の録音と比較しても、いちばんジュリーニの思い通りにできていたのがこの時期ではないでしょうか。
by stbh (2006-01-12 00:39) 

サンフランシスコ人

ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団 2008-2009シーズン

http://www.laphil.com/press/press_kits/wdch_pk_2008/wdch_0809_season_announce.pdf
by サンフランシスコ人 (2008-02-29 11:26) 

stbh

おおすごい!詳しい情報をありがとうございます(^_^)
by stbh (2008-02-29 18:39) 

サンフランシスコ人

久しぶりに日本への演奏旅行があります。
by サンフランシスコ人 (2008-03-01 05:48) 

stbh

10月ですね!ストラヴィンスキーを多く持ってくるようで、楽しみですね。
by stbh (2008-03-01 07:46) 

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