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Mahler/Sym9 [交響曲(マーラー)]

さあて、いよいよ来ました第9番。いやしくも(こんな言い方あるのか知りませんが)マーラー聴きを標榜するなら、この曲に対して一家言、持たないはずが無い。ひしひしと迫る死の影を感じながら、「第9番」を書かざるを得なかった悲劇の作曲者の慟哭と諦観を聴け!

(というように大上段に構えるつもりは毛頭ありません。だって所詮「通勤の車」ですから、まあ「雑感」ということで)

この曲の名演奏、名録音といわれるものが多いです。戦前のワルター/VPOにはじまり、ぱっと思い出すだけでも同/コロンビア、クレンペラー、バルビローリ、ジュリーニ、バーンスタイン/BPO、同/ACO、シノーポリ、アバド/BPOなど。クーベリック、ショルティ/CSO、インバル、テンシュテット、ラトル、シャイー、ノイマン、マゼール、ベルティーニなどの全集組(ハイティンクは再録音してましたっけ?)はもちろん、カラヤン(スタジオ/ライヴ)、ブーレーズ、ザンデルリンク、レヴァイン、アシュケナージ、バルシャイなど数多くの、一定の評価を得ている録音が出ています。

これら全部でなくても、5~6種くらいイメージできる人が、けっこう多いのではないでしょうか。どの録音も正解のように思えるし、どの録音も物足りないところがあるような気もするし、聴けば聴くほど難しいです。「決定盤」は永遠に出てこない曲ですね。

私がずっと聴いてきたのはこれです(国内盤は再発されているのでしょうか?)

マーラー:交響曲第9番

マーラー:交響曲第9番

  • アーティスト: ジュリーニ(カルロ・マリア), シカゴ交響楽団, マーラー, シューベルト
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2000/08/23
  • メディア: CD

もちろん、聴いていたのはLPなので「未完成」は入ってませんでした。30分を超える第1楽章は発売当時でも最長の部類でしたが、決してその長さを感じさせない、流麗で豊穣なうたごころあふれる録音です。CDで聴くときは、あまり負担を感じないバルビローリが多いでしょうか。聞き流しちゃうのはもったいない曲であるのは重々承知のうえで。

テープが残っているライヴの放送録音の中にはもちろんバーンスタイン/BPOもあり、それなりに聴いていました(他の演奏を聴いていて、第4楽章で足踏みの音や唸り声がしないと「あれ?」と思うくらいには)。またテープをCD発売前に、何人かの友人に貸しました。「ヨーロッパ楽団を席捲したアメリカの雄バーンスタインが、最後の難敵、帝王カラヤンの牙城BPOに単身殴り込みをかける」というわかりやすい構図は、その鬼気迫る演奏と相俟って、あっという間に伝説になってしまいました。

マーラー : 交響曲第9番 バーンスタイン

マーラー : 交響曲第9番 バーンスタイン

  • アーティスト: ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, マーラー, バーンスタイン(レナード)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1992/04/25
  • メディア: CD

カラヤン側の妨害がどうの、冷ややかなBPOの楽員がこうの、といろいろ雑音はありますが、まずは純粋に音楽だけ聴けばよいのではないでしょうか。私には、バーンスタインがBPOの楽員や聴衆に「ねえ君達、こういうのが(も)(マーラーの)音楽なのだよ」と諭しているように聞こえます。このCDは、結局カラヤン、バーンスタインとも亡くなってから発売されました。1960年前後に次ぐ、大きな世代交代の時期だったのでしょうか。この後ほどなくして、スタジオ・セッションや若い指揮者の録音が激減するなど、オーケストラのレコーディングは次第に衰退していき、現在に至っています。

今回、選んだ演奏は83年2月の朝比奈隆/大阪フィル。当時の大フィルにどれだけマーラーの演奏経験があったかは知りませんが、ベートーヴェンやブルックナーに比べると少なかったはず。第9番はそれほど大きな編成ではありませんから、基本的に楽団員でまかなえると思われるので、楽団の実力が出ていると考えてよいでしょう。

第1楽章は比較的早めのテンポで始まります。しばらくはぎこちなく、途中のテンポの変更やうねり、タメはあまりありません。決して情感に欠けるわけではありませんが、管楽器の音色も安定しており淡々と進む印象を受けます。しかし中盤以降、表情が多彩になり、クライマックスに向けて、またそれを超えて、生き生きと音楽が進むようになります。再現部は、冒頭とぜんぜん違う、霧が晴れたようなクリアな音楽になっていますが、この差は意図したものかどうか、ちょっとわかりません。

演奏会はスコアを見ながら聴くわけではないので、スコアを見ながら音楽を聴くのは邪道だとも思いますが、第1楽章のコーダは、指揮かスコアがないと譜割りがわかりづらくてなかなかテンポがつかめません。自分で演奏したことがあればだいたい暗譜できると思うのですが、第9番は残念ながら演奏経験がないのですよね。

第2楽章も同様に、最初のレントラーは何かしっくり来ない様子で始まりますが、テンポが変わりだすあたりから調子が出てきて、中間の早いところなどはけっこう痛快。大フィルも特に木管はがんばっていますが、弦はたいへんなパッセージだとときどき薄くなるように聞こえます。

この楽章を聴いているとき、マーラーに限らず、独墺系の3拍子舞曲は基本的にテヌート(「ティー」)とスタッカート(「ヤン」)の組み合わせの妙を楽しむ曲だと思いました。「ティーヤン」と弾いたときの「ティー」が同じ強さを保ったり、スフォルツァンド的に少し抜けたり、という表情がいろいろあって曲想とマッチしていることと、「ヤン」が「ぶち」とか「ぼそ」とかいわずに十分鳴ることが、豊かな響きと感じられる演奏に共通していると思います。(うー、ようわからん、文才の無さを痛感)

第3楽章以降、マーラーの楽譜へのテンポや楽想、指揮者への注意などの書き込みは極端に少なくなります。金子建志氏等の指摘のように、マーラーは演奏会を通じてスコアの最終チェックを行い、細かい指示や譜割りなどを決定していくのが常でした。当然、初演を行っていない「大地の歌」やこの曲はこういったチェック過程を経ていないので、他の曲に比べてスコアの指示が簡潔になっています。それでも「大地の歌」は「指揮者への注意」が何箇所か書かれていますが、第9番の、特に第3楽章の後半は、注釈をつけていく工程がまだ終わっていないような印象を受けます。

いっぽう、この簡潔な指示でこのスコアは完成していると捉えるアプローチもあり、朝比奈の演奏はそれに近いものになっています。つまり最初から617小節のピウ・ストレットの前まで、中間部を除けば基本的に同じテンポで進められています。表情付けの多い演奏になれている人(私も含めて)にとって、このアプローチはちょっと無骨に聞こえるかもしれません。ストレット-プレストのテンポ変化もあまり大きくなく、おとなしく終わります。

第4楽章も、基本的にはインテンポで情感を表出しようという演奏です。金管がほえるわけでもなく、弦のフォルテもギシギシいって松脂が飛ぶような音色ではなく、端正な解釈だと思います。主部は早めで、ワルターに近い印象を受けます。これは放送録音ゆえだと思うのですが、終結に向かって弦楽器の音がなかなか小さくなっていきません。最後の和音もちょっと「ersterbend」(消えるように)とはいえないかなあ。

しかしこの、スコアにして20ページ足らずの中になんとすばらしい音楽が凝縮されていることか!大フィルも大健闘で、しばしの沈黙のあと、大拍手とブラボー。

全体を通して聴いてみると、朝比奈のアプローチは、ブルックナーに対してと同様、あまりテンポをいじらず、鳴らすところはたっぷり鳴らすような音作りだと思います。たぶんマーラーの初期の、もっと指示の多い曲でも、細かい指定は必ずしも守らないで、堂々とした演奏をしていたのではないでしょうか。

今回はいつになくたくさん書いてしまいました。なかなかso-net blogがまともに動かなくて、忘れるといけないので今週は通勤の半分以上このテープを聴いていていたので、いろいろ思うところが増えてしまいました。お付き合いいただいた方、ありがとうございます。


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コメント 4

基本的に2ndVn弾きなのでマラ9は思い入れ深い曲です。CDはバーンスタインが好みですが、何となく自分が弾いた演奏が基点となっているのでどれもしっくり来ません。指揮の飯森範親氏http://www3.to/norichika-web/は指揮している途中でどこかへ(あの世?)行ってらっしゃっる目をされてました(^^;。どの指揮者もこの曲は熱い演奏になるので色々な人の演奏を聴きたいですね。
by (2005-07-09 03:07) 

stbh

マラ9を弾いたことがあるのですね!うらやましいです。自分で演奏した曲をCDで聴くのは、原作をよく知っている小説をもとにした映画を見ているようで、どうしてもどこかに違和感があると思います。飯森範親さん、10年以上前に振っていただいたことがあります。曲は違いますが、ゆったり謳うところで「遠い目」をしていた表情を思い出しました。
by stbh (2005-07-09 07:01) 

おさかな♪

9番の4楽章で弦全員がffになるところは、何度聴いても感動します♪
by おさかな♪ (2005-07-16 23:12) 

stbh

おさかな♪さん、nice!とコメント、ありがとうございます。終楽章はおもわず聞き入ってしまうので、運転中はあまりおすすねできませんね(苦笑)
by stbh (2005-07-17 07:44) 

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