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Bruckner/Sym8 [交響曲(独墺系)]

せっかく新しいお客様もあるというのに、どうも更新が滞っていて失礼しています。

今回聴いたのはカラヤン/VPO、1986年8月17日、ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ。近いCDとしてはこれになるのでしょうか。このCDは1988年、亡くなる8ヶ月前の録音です。

ブルックナー:交響曲第8番

ブルックナー:交響曲第8番

  • アーティスト: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, ブルックナー, カラヤン(ヘルベルト・フォン)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1998/06/10
  • メディア: CD

亡くなる直前の録音は、BPOとの不和もあったのでほとんどVPOとのものだったと思っていたら、亡くなるぎりぎりまでVPOとBPOと半々くらい録音していたのですね。このころのVPOとの録音は、「最後の録音」ブルックナーの第7、やこの第8、「悲愴」など、全盛期のベルリン・フィルとの切れ味のよいアンサンブルとはまたちがった、ひびきを大事にしたゆったりとしたテンポの、息の長い録音が多くなってきたように記憶しています。

80年代、せっかくデジタルの時代になったのにどうにも衰えは隠せない。かくしてカラヤンは、「惑星」の再録音やサン=サーンスの第3、アルペンなど「デジタルならでは」の曲や、ブルックナーの第1~3交響曲、「トゥーランドット」など演奏会場や劇場でかけていない曲など、これまでとは違ったタイプの曲の録音を進めていくことになります。

しかしその一方で、ベートーヴェンとブラームスの交響曲は全曲デジタルで再録音していますし、「帝王カラヤン」として守っている矜持のひとつとして、このブルックナーも録音されたのではないでしょうか。VPOは1984年にジュリーニとこの曲を録音したばかりでしたが、カラヤンと嬉々としてやっているか、やっつけ仕事でやっているか、聴いてわかるものでしょうか?

第1楽章冒頭、ヴィオラ以下の主題からいきなり「カラヤン節」ではあります。70年ごろまでのカラヤンの演奏は概してテンポが速くてキレがよく、レースカーや飛行機の運転をする姿が放送されたりして、「スピード狂」と揶揄されたものでした。しかし晩年のイメージは遅いテンポ、長いフレーズ、強烈なレガート。むろんここでの演奏も、晩年のものではありますが、ブルックナーの曲自体が息の長いものであり、カラヤンのスタイルは、思いのほか(というと失礼ですが)違和感がありません。

第2楽章はかなり遅いテンポで、やはり冒頭のヴィオラ+チェロからかなり粘ってはいますが、終始インテンポでどっしりとした演奏になっています。そういえば第1楽章の最後もインテンポのままでした。ルバートも晩年のカラヤンの特徴のような印象がありますが、わきまえているというか、むやみにやっているのではなく、要所は締めていることがわかります。

第3楽章の最初、弦楽合奏が一瞬テンポをつかみ損ねているようにも聞こえますが、すぐもちなおし、音楽が滞ることはありません。強弱やテンポの変化は常に緩やかで、ごつごつした感触はまったくありません。この楽章は、やはりVPOの音が弦も管も似合いますね。

第4楽章に入る前に軽くチューニングをやりなおしています。第3楽章からほとんど続けて入る演奏もありますが、このあたり、なんとなく余裕を感じさせます。

さて、いかに第3楽章が美しくとも、第8の真骨頂はやはり第4楽章だと思うのですが、いかがでしょう。第4楽章も、強奏の迫力はありますが、なめらかな音楽が続きます。この世代の指揮者に、ハース版を用いているのにそれほど深い理由があるとは思えませんが、しいて言えば経過句が多く、ゆるやかな変化で聞かせる部分がより多いからかな、と思ったりして。ちょっと考えすぎですね。単に慣れだと思ったほうがよいでしょう。

ブルックナーで「カラヤンが楽譜に忠実」と言ったら、以外でしょうか?例えばこの楽章の第13、14小節。トランペットのファンファーレのうらで、金管のハーモニーから5~8番ホルンだけfff のままで残ることになっていますが、たいがいの演奏はトランペットを聞かせるためホルンを小さくします。しかしここではホルンのユニゾンがしっかり聞こえているのです。コーダでも、大いにカラヤン節を振舞ったあと、最後の3音は圧倒的なリテヌート(急激に遅く)で終わりますがこれも楽譜に書いてあること。

もう20年前の演奏で、こまかいテンポの変化など解釈のスタイルとしては古いのかもしれませんが、特に第4楽章の迫力は有無を言わさないものがあります。終演後の大拍手とブラヴォーもまったく異論のない、強烈な印象を残す名演でした。むろんVPOも、カラヤンに共鳴してやっているのだと思います(きっとそうだと思いたくなるような、迫力の演奏です)。

おびただしい録音を残したカラヤンですから、その演奏がディスコグラフィから消える日はそうそう来ないでしょうが、没後20年近くたち、もう音楽界では、そのオーラはほとんど消えているでしょう。時が経つ、というのは、残酷です。しかし個人的には、リアルタイムでカラヤンの録音に接してきた世代として、「もっとも影響を受けた指揮者」のひとりであることは確かです。「最後の巨匠」は何人かいますが、「最後の帝王」はこの人で決まりなのではないでしょうか。


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コメント 6

mozart1889

カラヤンこそ、「最後の帝王」ですね。同感です。巨匠は今もいますが、帝王はおりません。スゴイ指揮者でした。我が家にも、カラヤンの夥しい録音の一部ですが、結構あります。今も大切に聴いています。
このブルックナーは未聴なんです。BPOとの全集があるので、そちらで満足してます。少し速めのスタイリッシュなブルックナーで、レコード時代はあの鳥の翼のデザインがカッコ良かったですね。
VPOとのこの演奏、中古盤で買おうと思いつつ、なかなか巡り会いません。
しかし、カラヤンの演奏は、なかなか廉価盤・激安盤になりませんね。
by mozart1889 (2006-05-21 05:56) 

stbh

mozart1889さん、コメントありがとうございます。
メジャー・オーケストラに「君臨した」指揮者としては、カラヤンが最後でしょうね。BPOとの最後は、必ずしもハッピー・エンドとはいえなかったようですが、一時代を築いた功績は消しがたいと思います。
えらそうなことを言っているわりには、カラヤンのブルックナーは(なかなか廉価落ちしないので)一部しか聴いていません。ブルックナーに限らず、ショップでもカラヤンのCDを見る機会が減ってきたように思います。EMIやDGのアナログ録音のものはけっこう廉価盤がでてきているようです。80年代の録音も一部は廉価盤になってきています。もうしばらくの辛抱なのでしょうか…。
by stbh (2006-05-21 13:54) 

聴診器をもったヴァイオリン弾き

聖フローリアン教会でのカラヤン/ウィーンの演奏がとても好きです。いまはDVDでも出ていますが、むかしLDでしかなかったので無理を言って買ってもらった記憶があります。とてもバランスの取れた演奏で好感が持てます。
by 聴診器をもったヴァイオリン弾き (2006-05-22 13:34) 

stbh

聴診器を持ったヴァイオリン弾きさん、nice!とコメントありがとうございます。聖フローリアン、1979年でしたね。80年代後半よりは、音楽がサクサク進んでいたかのように記憶していますが、いかがでしたでしょうか。
カラヤンは、録音や映像にこだわりを持った指揮者(音楽家)の先駆者であり、CD規格に口を出すなど、ダントツで影響力の大きい人でした。ともすれば「音楽家にあるまじき」との誹りを受けながらも、テクノロジーへの本質的な理解は高かったのだと思います。おかげで、彼の優秀録音・録画が楽しめるわけですから。
by stbh (2006-05-22 23:36) 

おさかな♪

おさかな♪もカラヤンさん、大好きです!
沢山良質な演奏の録音を残してくれているお陰で、
それほど高いお値段でなくCDが買えるので、
おさかな♪の中ではとっても元気に生きていますヨ♪

ブルックナー8番は、初聴きが実演だったので印象ベースになって
しまうのですが、3楽章が一番気に入りました。
でも4楽章は「もっと3楽章を聴きたいヨ~」と思っている人も満足できる程、
素晴らしいと思います。
by おさかな♪ (2006-06-03 21:14) 

stbh

ブルックナーを聴くと、往々にして退屈に感じてしまうこともあります(私も最初はそうでした)。おさかな♪さんは感受性が高く、かつよい演奏にめぐり合えたのだと思います。いつか弾く機会もあると良いですね。
カラヤンの数々の録音、それなりに淘汰されてきているようですが、美しさではまだまだ現役のものが多いと思います。楽しんだら、ブログで教えてくださいな(こればっかし)。
by stbh (2006-06-04 11:04) 

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