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Mahler/Wunderhorn [声楽曲(マーラー)]

マーラーの歌曲集は、もちろんこれだけではないのですが、なんとなく「角笛」に手が伸びることが多いです。

Mahler: Des Knaben Wunderhorn (The Youth's Magic Horn)

Mahler: Des Knaben Wunderhorn (The Youth's Magic Horn)

  • アーティスト: Walter Berry, Gustav Mahler, Leonard Bernstein, Christa Ludwig
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 1993/05/18
  • メディア: CD

歌曲集「少年の魔法の角笛」(本エントリーでは、日本語の題名はCBS・ソニー発売の、同じ演奏のLPに準拠、以下同じ)、バーンスタインの旧録音。このCDは、統一されたジャケット・デザインでソニーから10年余り前に100種出された"The Royal Edition"の一環として発売されたものですが、現在はこれも入手しにくいようです。そもそも新盤(コンセルトヘボウ、ルチア・ポップ、アンドレアス・シュミット)でさえ、単独では入手できなさそうなので、悲しいですね。バーンスタインのマーラーは「全集で買え」あるいは「DVDで見よ」というのがユニヴァーサルの方針なのでしょうか。

歌唱はワルター・ベリー(バリトン)とクリスタ・ルートヴィヒ(メゾソプラノ)、オケは当然NYPで、1967年と69年にまたがる録音。場所は「リンカーンセンターのフィルハーモニック・ホール」となっていますが、何のことはない、NYPの本拠(だった)エイヴリー・フィッシャー・ホールのことです。アメリカには記念碑的な業績をなした人や経済的に成功して寄進をした人の名前を冠した施設が多いです。そういう名前がつく前は、当たり前ですが、何の変哲もない名前なのですよね。実はこのメンバーにはバーンスタインがピアノを弾いている盤もあるのですが、今回は管弦楽伴奏のものをご紹介。

歌曲集「少年の魔法の角笛」は、通常、1890年代前半までに作曲された10曲と、「リュッケルトの詩による歌曲集」といっしょに「最後の7つの歌」として出版された2曲の12曲からなっています。第2から第4の交響曲が「角笛交響曲」とくくられるのは、これらの交響曲のいくつかの楽章で、もとの詩集からの歌詞を使っていたり、この歌曲集と旋律や雰囲気を共有したりしているからです。

このCDには全部で13曲入っています。バーンスタインはこの録音でも、またDGへの新録音でも、第2交響曲の第4楽章、「原初の光」を加えています。「角笛交響曲」で「角笛」の詩が使われているのはこれだけではありませんが、例えば第3の第5楽章は少年合唱・女声合唱がメインだし、第4の第4楽章はあまりに交響曲と不可分の関係にあるので、確かに交響曲から持ってくるには「原初の光」くらいしかありませんね。

男女で交互に歌う詩がある(二人で歌うことを指定されているわけではない)ため、全曲録音は男女のソリストが用意されることが多いようです。シャイー盤は、「曲の違いによって声質を変える」という意図で4人が交代で歌っているそうです。また曲順も指揮者(あるいはプロデューサー?)のこだわりの見せ所であるわけですが、バーンスタインは新盤では曲順を変えています。また、テンシュテットがセルとまったく同じ曲順にしたのは、EMIの意向だったのでしょうか。

それでは収録順に聴いていきましょう(Lはルートヴィヒ、Bはベリーが歌唱)。この盤では、マーラー幼少時の体験に基づくと思われる軍楽隊の響きを持つ曲を要所に配し、その間を交響曲の中間楽章のような曲でつないだ構成になっています。管弦楽の編成は基本的に2管でトランペットまで。ピッコロ、コーラングレ、ハープはときどき、他の特殊楽器やトロンボーンもまれに参加。打楽器はティンパニ、スネア、トライアングル、大太鼓、シンバルなど。軍楽につきものの(第1、第2交響曲で使われた)シンバルつき大太鼓も一部にあり。

1. 歩哨の夜の歌(L、B)
軍楽シリーズ。歩哨が、その幻影にうかぶ恋人と語り合い、歌いあってしまったために彼に何が起きたか?歌曲集、ひいては詩集の根底にある戦争へのアイロニカルな態度がすでに示されます。

2. この歌を拵えたのは誰だろう(L)
2・4拍子系のミリタリー・マーチと対照的に、3拍子系の曲は第2、第3交響曲の第2楽章を想起させる、穏やかな曲が多いです。

3. 少年鼓笛兵(B)
軍楽。バスクラ、コントラ、テューバ、ドラが加わり、フルート、トランペット、ヴァイオリン、ヴィオラはなし。暗い響きの中での、絞首台に向かう少年兵の悲痛な叫び。7. とともに「リュッケルト」と同時期の作曲。

4. ラインの伝説(L)
2. と同様に、軍楽の曲と対比されるように、3拍子の優美な曲が配されています。

5. 塔のなかで迫害をうけているものの歌(L、B)
小太鼓は入っていないが、これも軍楽シリーズでしょうか。歌いだしの旋律からして、1. と共通の気分が大きいことがわかります。塔の中の囚人と恋人との対話は、1. や3. のように直接、死につながるイメージではないぶん、表現が抑制され、葛藤が内面に向かっているかのようです。

6. 原初の光(L)
こういう音楽は、ついつい、止まってしまいそうなバーンスタイン節になってしまいますね。通常5分前後と思われるこの楽章、先日ご紹介したスイトナーは4分そこそこなのに対し、ここでは6分24秒。しかし聴いていての緊張感は、かえって高いくらいかもしれません。

7. 惨殺された鼓手(B)
軍楽。3. と並んで後期に作曲された曲。この歌曲集からどれか1曲!といわれたら、月並みだけれどこれを選んでしまいますか。

8. 魚に説教するパードゥアの聖アントーニウス(L)
交響曲第2番の第3楽章。オーケストレィションもかなり似ていて、「どうしてファンファーレにならないのだろう?」とか、頓珍漢なことを思っているうちに曲が終わってしまいます。

9. むだな骨折り(L、B)
女性と男性が交互に話しているのだが、実は女が次々に出してくる誘いに、「そんなことちっともしたくない」と答えるだけ。それで君は本当に幸せ?

10. 美しき喇叭の鳴るところ(L)
テーマは兵隊なのですが、ファゴットや打楽器がなく、弦楽器は全曲を通じて弱音器つき。若い娘のところに思いがけずやってきた最愛の兵士は、実はもう…

11. 高い知性を頌める歌(B)
トロンボーンとテューバ(各1)と、E♭クラリネットが加わり、ちょっとにぎやかになります。夜鶯と郭公との歌較べをロバが審判する、という他愛もない内容ですが、シビアな曲の間にこういうのがあると、ちょっとほっとします。

12. この世の生(L)
第10交響曲の第3楽章にこの曲のモチーフが使われています。「おなかがすいた、おなかがすいた」という子供が、やっとパンが焼けたと思ったら死んでいた、というショッキングな内容の曲を、晩年のマーラーが第10に反映させた意図はどこにあったのでしょうか。

13. 運の悪いときの慰めっこ(L、B)
最後はやはり軍楽。戦場に赴く兵士とそれを見送る女が、互いに「おまえと一緒じゃ恥をかく!」とののしるように言い合わなければ分かれられない、悲痛な景色が描かれています。

こうやって全曲を見渡すと、「民話集」とはいえ、かなり悲しい、グロテスクな内容が多いことがわかります。やはり特徴的なのは兵士(の幽霊)で、マーラーは、特に若いころ、戦争をかなり身近に感じていたのではないでしょうか。マーラーは1910年に亡くなっているので2度の大戦は知らないのですが、もし生きていたら、世界中が戦火に巻き込まれる世の中をどう見たでしょうか。

戦争で悲しむ人を減らさなければならないのに、逆に増えそうな気配に、世の中なってきているようで、いささか恐ろしいです。このLP(国内盤なのでオリジナルかどうかわかりませんが)のジャケット、戦争などとは縁がなさそうですが、ちょっと面白いです。珍しいので、写真をとってみました。

昔のことなのでよく憶えていませんが、セル盤とどちらにするか迷って、こちらをジャケ買いしたのかもしれません(笑)。裏には、バーンスタインがスタジオ(譜面台や椅子が写っています)でタバコを吸いながらルートヴィヒとベリーと打ち合わせをしている写真が載っています。おおらかな時代だったのですね。


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stbh

ディックさん、ご来訪とNice!ありがとうございます。ディックさんがブログで紹介されているグッズ、面白いものばかりですね。ウォッチさせていただきます。今後ともよろしくおねがいします。
by stbh (2006-05-14 17:13) 

おさかな♪

ジャケ買い、おさかな♪もしますヨ~^^☆
マーラーの歌曲は交響曲内で使われていることが多いので、
聴いておくと面白いですよね。
先日FMラジオでかかっていて、「お。」って思いました。
by おさかな♪ (2006-05-14 21:26) 

stbh

第3交響曲までは、歌曲と共通の旋律がたくさんあります。それ以後でも、歌曲集のような交響曲「大地の歌」があったり、マーラーの交響曲と歌曲は不可分の関係のようです。
みなさんよくやってらっしゃるので試してみたのですが、ジャケットの写真撮るのって難しいですね。絵柄がわからないかも…と思ったらどうも大きすぎるようで…(^^; まだまだ精進が足りません。
by stbh (2006-05-16 00:35) 

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