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Bruckner/Sym9 [交響曲(独墺系)]

勤務先では組織変更があり、引越しなどで落ち着かないです。

さて今日はブルックナー最後の、未完の作品を往年のEMIの録音で。

ブルックナー:交響曲第9番

ブルックナー:交響曲第9番

  • アーティスト: シューリヒト(カール), ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, ブルックナー
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 2001/09/27
  • メディア: CD

多少安くなったとはいえ、40年以上前の録音が現役というのはすごいことですね。1300円盤で出さないと言うことは、それだけ売る自信があるということでしょう。

ブルックナーにあまり詳しくない(興味が無い)人は、「ブルックナーの交響曲なんかどれを聞いても同じ」と言いますし、ブルックナー・ファンは、「一曲一曲、すべてに個性がある」といいます。どちらかといえば後者の私、ブルックナーは交響曲を作曲していくたびに新しいことをやり、進歩していると思いますし、各曲ともそれぞれ個性的だと思います。

その作品群の序列を、どこかで区切ろうとむりやり考えるとどんなものでしょう。第6までと第7以降、という捉え方がひとつありますね。これは第6がいささか地味で人気の点では若干落ちるのと、楽器の面では第7以降にワグナー・テューバを用いていること、第7、第8に打楽器が加わっていること、第7ではじめて初演が成功したこと、などが根拠だと思います。

しかし個人的には、第7はそれまでの作品の延長線上にあり、その次の第8は、これ以前の作品をすべてふまえて、それらを超越していると感じます。楽章の順番や楽器編成だけでなく、音楽の作り方=構成、旋律の組み合わせ方など、全くちがったアプローチになっているように感じるのです。ですから、区切りは第7と第8の間にあると思うのです。

これは第8の第1稿(VIII/1)を聴くと、より強く感じます。それまでの作品から大きく飛躍したはずの第8の初演が失敗に終わったブルックナーは、意気消沈して旧作(第4、第1、第3)や第8の改訂に時間を費やすのですが、これらの改訂で旧作は、一部で第8に近い雄大な楽想を得るものの、長さが短くなり、わかりやすくなった反面、形式のバランスを失ってしまうのでした。この改訂で第8もわかりやすく、短くなっているのですが、とんがった曲想は減り、若干退歩している、といえないこともありません-そう捉える人はごく少数だろうとは思いますが。

さてやっと第9に話を移しますと、第9は第8の、特に第1稿の流れをさらに進めて、いっそう実験的な作品になっていると思います。調性はベートーヴェンに倣ったd-mollですが、特に第1楽章では、随所に半音の進行や不協和音が取り入れられています。また特徴的なのは各種の前打音や装飾音で、さまざまな長さ(八分音符から三十二分音符)が書き分けられ、不協音程や跳躍音程が使われていて、独特の不気味さを感じさせます。

第2楽章も、冒頭から延々と続くオーボエのCisの吹きのばしの上で和声がさまざまに組み変わり、これまでのブルックナーのスケルツォのような、ある種の爽快感とは明らかに異なる雰囲気になっています。ブルックナーには珍しく"schnell(速く)"と指定されたトリオの後半になって、やっと明快な旋律線があらわれます。

第3楽章は、美しいメロディーも多く、第8番の雰囲気を最もよく継承していますが、トランペットの印象的なパッセージ(「えー、豆腐!」)や、コーダ直前のクライマックスなど、やはり不協和音をふんだんに用いており、新しい音響に挑戦しているかのようです。

このような意欲作ですから、未完の第4楽章を完成するのは至難の業でしょう。私が持っていた古いオイレンブルクのスコアの解説にも、いくつかの主要主題の楽譜とともに第4楽章のおおよその構造が言及されていましたが、音で聴くすべは昔からあったのでしょうか?各種の完成版が作られ、録音され始めたのは1980年代からだったと記憶しています。

現在ではブルックナーに関する研究も進み、散逸したマーラーの第10のように、いちおう通してスケッチが作られたことが最近の研究でわかってきたとはいえ、一部が依然として散逸しており、まったくゼロの部分を補わなくてはならないのですから、楽章を完成することは依然、相当困難でしょう。

そこで現実的なアプローチとして、第4楽章の残された部分だけを音にするのは理にかなっているといえるでしょう。ブルックナー協会から楽譜も出版されました。しかしこれはまた、「楽章」という形で聴きたいという欲求不満を助長することにもなります。一方で、あえて不可能を少しでも可能に近づけようとする(楽章を完成しようとする)試みもすでに録音がいくつかあります。

いずれにしても、ブルックナーが最後まで完成の意図を持って取り組み続けた第4楽章に、少しでも近づいていけるというのは、ありがたいことです。今後の研究の進展を見守りたいと思います。

シューリヒトの録音ですが、特に第3楽章のテンポは、他の指揮者と比較して速いです。通常、25分前後かかることの多いこの楽章を、20分あまりで演奏しています。第1楽章ではかなり遅い部分もあるので、曲全体でなく、意図的に第3楽章が速いことがわかります。

このように第3楽章を速く演奏する意義は何でしょうか。私は、シューリヒトが、この交響曲を完成したかったブルックナーのメッセージを感じているのではないかと思うのです。よくこの交響曲の解説などには、「未完なのだが終結感がある」と言及されていることがあります。しかしブルックナーは、前述のように第4楽章の作曲を死の直前まで続けており、決してこの曲を第3楽章まででやめる気はなかったと思われます。

 もし第4楽章が完成していたら、そのときに誰が、この第3楽章を、終結感を持たせるように演奏するでしょう?シューリヒトのあっさりとしたアプローチで聴いてしまうと、物足りなくありませんか?この第3楽章の先が欲しくなってきませんか?ちょっと強引かもしれませんが(^^; この曲が未完であることをことさら感じさせるために、このような解釈がとられたのではないかと思えてなりません。

付け加えておきますと、ウィーン・フィルのアンサンブルはいまひとつで、第1楽章のアッチェレランドなどで乱れるところもあります。しかしむろん、この当時の音色は魅力的ですし、全体の構成の緊密さにくらべたら小さな瑕疵です。私の聴いているのは昔の盤なので、一列横隊的というか、全部の楽器が平等に聞こえてきてかえって妙なバランスなのですが、最新のARTリマスター盤はいかがでしょうか?世評は概ね高いようですが。


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コメント 8

おさかな♪

ブルックナーとマーラーは仲良しだったみたいですね♪
9番の幻想的なジャケット、素敵です。
by おさかな♪ (2006-04-16 22:36) 

3楽章は「えー、豆腐!」だったんですか。「さーおだけ!」と思ってました。
浦島的には3楽章で立派な交響曲なんですけどね、、、。
マラ9と並んでとても好きな曲です。
うちのCDはジュリーニ?ちょっと忘れてしまいました。^^;
by (2006-04-17 00:07) 

stbh

おさかな♪さん、niceとコメントありがとうございます。
ブルックナーの第3交響曲を、マーラーが学生時代?に2台のピアノ用に編曲しています。年もけっこう離れていますし、直接の弟子ではなかったようですが、マーラーは影響を受けていたのではないでしょうか。
by stbh (2006-04-17 19:42) 

stbh

浦島さん、niceとコメントありがとうございます。
「さーおだけ!」とどっちにしようか迷ったのですが、先に聞いた方にしました。第4楽章が完成されていたとすると、第8や、それこそマーラーの第9に匹敵する規模の、巨大な交響曲になっていたようです。4楽章版のCDを持っていますが、なかなか聴きとおすのは大変です(^^;
by stbh (2006-04-17 19:48) 

mozart1889

シューリヒトの9番は(8番もですが)、大変な名演だと思います。第3楽章の速さはかなりのもんですが、なるほど、「この曲が未完であることをさらに感じさせるため」だった・・・・。久しぶりにシューリヒト盤を取り出してみたくなりました。EMIの録音も、結構いけますね。
by mozart1889 (2006-04-21 16:56) 

stbh

mozart1889さん、こんにちは。コメントありがとうございます。シューリヒトのブルックナー第8、第9の録音を聴くと、演奏の「深み」というか、得られる感動は、見かけのテンポにまったく関係ないことが改めて認識されます。折に触れて聴きたくなる録音です。
by stbh (2006-04-22 11:53) 

聴診器をもったヴァイオリン弾き

初かきこです。ブルックナーの演奏に対する感じ方はほんとにいろいろな意見があってとても面白いですよね。自分はヴァント/北ドイツが結構気に入っております。余談ですが7番に関してはいままでどんな演奏もぜんぜん気に入らなかったんですが(自分の演奏を含めてですが)、先日の(といってもだいぶ前ですが)ブロムシュテットをサントリーホールに聞きにいってあらためて感動しました。
stbhさんの音楽の造詣の深さにも感動です。また寄りまーす。
by 聴診器をもったヴァイオリン弾き (2006-05-15 23:06) 

stbh

聴診器をもったヴァイオリン弾きさん、ご来訪ありがとうございます。貴ブログやBONのページを拝見しました。筋金入りの「ブルックナー・オケ」で番をはってらっしゃる方においでいただいて光栄です。
ブルックナーは寄せ集めのオケで第9をやって以来、はまりました。やはり、どんな演奏・録音より、自分で演奏するのがいいです(やった直後は自己嫌悪のカタマリでも)。これからもよろしくお願いいたします。
by stbh (2006-05-16 01:07) 

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