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Tchaikovsky/Sym5 [交響曲(独墺以外)]

明けましておめでとうございます(いささか遅くなりましたが)。本年も何卒よろしくお願いいたします。

さて、新年第1回目は、やはり長年聴きなれた曲からはじめたいと思います。自分で聴きなれたものではありますが、この曲のベストの録音のひとつだと思います。

チャイコフスキー:交響曲第5番

チャイコフスキー:交響曲第5番

  • アーティスト: カラヤン(ヘルベルト・フォン), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, チャイコフスキー
  • 出版社/メーカー: 東芝EMI
  • 発売日: 2004/12/08
  • メディア: CD

この5番を含む、1971年のEMIでの後期交響曲集は、カラヤンの数あるチャイコフスキーの録音の中でも、もっとも気持ちよく聴けると思います。中でもこの第5は、要所要所のテンポやダイナミクス、細かい微妙な表情などのひとつひとつが決まっていて、ずさんな表現で恐縮ですが、かっこいいです。

第1楽章冒頭、クラリネットで提示される「モットー」から、濃厚な表情がついています。しかしこれはチャイコフスキーが、ほぼ毎小節ごとにダイナミクスを変えるよう指定しているのですね。もうこの序奏だけで「カラヤンのチャイコフスキー」の世界に拉致されてしまいます。「副次主題」といわれるD-durの部分、テンポを落としてから提示部最後のffに至るまでのクレッシェンド+アッチェレランドはまさに豪快にして繊細。残響の多い録音が、起伏の激しい曲想に良くあっています。

第2楽章の主題部は、第1楽章にも増してテンポと強弱がころころ変わります。それがまったく違和感無く聞こえてくるのがこの録音のすごいところです。力を入れ続けてふっと抜けたり、高揚したり落ち着いたりなど、まるで揺れる心の移り変わりがそのまま音楽になったようなこの楽章を、だれることなく聴かせるのは至難の業ではないでしょうか。

第3楽章のワルツで長調に転じますが、3拍子で続いてきているからか、旋律が妙に哀愁を帯びて聞こえます。主題部のおっとりとした曲調の中に、中間部の十六分音符のパッセージの対照が鮮やかで、快感です。

ついにはっきりとしたE-durでモットーが奏され、第4楽章が始まります。e-mollに戻る第1主題へのブリッジはGのティンパニのロールのクレッシェンド。楽譜にはmfとしか書いてないのですが、アレグロのテンポの1拍目を「ばん」と叩くのはお約束ですね。

このGに象徴されるように、この曲は第1楽章の最初、そして第4楽章の最初のティンパニに属音(ドミナント)のH(B、ロ)の音がありません。「ドミナント」というぐらいで調性を支配する、下手をすれば主音(トニック)より大事な属音をあえてはずすことによって、3度や6度を強調して従来の4度関係から脱却しようとしているのかもしれません。なお、ティンパニに主音・属音以外を使った最初はベートーヴェンの第7のスケルツォ(A-durでAとF)だと思います。

主部に入ってからは、わき目を振る間もなくコーダの前のH-durまで一気に持っていかれます。そして6拍子に戻っての輝かしい行進曲のコーダ。BPOのパワー炸裂のfffで、全曲を締めくくります。

カラヤンはこの録音を、他の2曲とともに1971年の9月に行っています。現在この録音シリーズは、この第5と「悲愴」が1300円で出ています。ジャケットがしょぼくて悲しいのですが、日本でリマスタリングが行われているので、国内専用企画なのでしょう。実はこのシリーズの第4も名演の誉高いのですが、マスターテープにノイズがあるとかで、これまでCDの国内発売はされてきませんでした。この「幻の第4番」のCD化情報を見たと思ったのですが、詳細を失念してしまいました。ご存知の方、コメントいただけると幸いです。

さてカラヤンは、第5番についてはわずか4年後の1975年10月に、またその翌年には第4と「悲愴」の録音をDGと行っています。EMI、DGいずれの録音にもカラヤンの重要なスタッフであるMichel Glotz(ミシェル?ミヒャエル?マイケル?「グロッツ」はドイツっぽいですけれど)が名を連ねており、会場こそ違え(イエス・キリスト教会とフィルハーモニー)、同じベルリンフィルで、演奏時間も一楽章あたり最大でも15秒程度しか違わない録音を行った理由は何なのでしょう?

EMIとの録音に不満があったのか、DGとの契約で全集(1979年に完結)を録音することにしたからか、など、いろいろ想像は膨らみますが、リスナーとしては、面白い演奏を多く残してくれたのですから、ただただ感謝するしかありません。あくまで好みの問題ですが個人的には、まとまりのよい、きちんとした印象のDGの録音より、「やりたい放題」感のあるEMIの録音が好きです。

結局、今年もこのようなとりとめの無い印象記を書き連ねていきそうですが、よろしければぜひお付き合いをお願いいたします。

☆ティンパニのチューニングについて追記 ベートーヴェンの第5の第2楽章はAs-durですがティンパニは曲全体の主調に合わせてC-Gのままで、主和音、属和音の第3音を使うようになっており、主音も属音も出てきません。第3、第4の第2楽章が「楽章の」主音・属音にチューニングしなおしていることからも、第5の試みは新しいと言えるでしょう。

「運命」「田園」として交響曲の代名詞のように言われている双子の交響曲が、決して当時の典型的な交響曲ではなく、実験的な意欲作であったということの根拠のひとつだと思います。他の根拠については別の機会に。


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mozart1889

カラヤンのチャイコフスキー、ホンマに沢山ありますね。
第5について云えば、やはりこのEMI盤が最高かなと思います。やりたい放題ですし、カラヤンには珍しく音楽がうねります。スタイリッシュなDG盤(1975年)も捨てがたいんですが、EMI盤で聴けるカラヤンの慟哭がやはりエエですね。イアン・ジョーンズのリマスタリングも見事です。音の厚み、存在感がスゴイです。
by mozart1889 (2006-01-05 12:51) 

stbh

mozart1889さん、コメントありがとうございます。
私はLP2枚組3曲という盤で最初この演奏を聴いていました。ギュウヅメなので音はあまりよくありませんでしたが、中でも第5の終楽章はかっこよくてお気に入りでした。ベルリン、ウィーン、パリなどを飛び回ってEMI、DG、Deccaへおびただしい録音を行っていた当時のカラヤンは、本当にスーパースターでしたね。
by stbh (2006-01-05 14:15) 

おさかな♪

あけまして おめでとう ございます♪
今年もよろしくお願いいたします^^。

ドミナントなしって面白いですね♪
先日、カルテットを結成しました^^☆
私はセコバイなのですが、半音間違えると全体の調性が変わることがあり、とても面白いです。
のんびりしたカルテットで、何か笑ってばかりいます。
チャイコで幕開け、素敵な一年になりますよう!
by おさかな♪ (2006-01-06 21:44) 

stbh

おさかな♪さん、おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
カルテット結成おめでとうございます~”どんどんぱふぱふ”
室内楽はひとりひとりの役割りがはっきりしているので、面白いですよね。どんな曲をやっているのでしょうか?楽しんでください。
もう風邪は回復されましたか?年末の忙しい時期に大変でしたね。「風邪に良い曲」、決まってるじゃないですか、ベルクの後のほうのオペラ… (失礼しました。よけい頭痛くなるかも)
by stbh (2006-01-06 23:34) 

おさかな♪

あははは・・・^^!「ルル」ですね♪
先日コンビニで購入した「はちみつ梅」なる飲み物が、
どことなく「ルル」の味! 
お母さんに隠れて美味しい風邪薬(?)を大量に飲んでいるような、
妙~な落ち着かなさがありました。

>”どんどんぱふぱふ”
ティンパニー by チャイコのチューニングですね♪
ありがとうございます^^。
今までのコメントのお返事も、いつも面白く拝読させていただいております。

>どんな曲をやっているのでしょうか?
今日やっと記事を書きました^^♪
良かったらまた遊びにいらしてくださいね☆
良いお休みを!
by おさかな♪ (2006-01-07 21:29) 

stbh

「美味しい風邪薬」で思い出したのは「アイス」。普段のアイスは10円の「ホームランバー」専門だったのですが、風邪をひいて「アイスが食べたい」というとカップアイスを買ってもらえました。まだハーゲンダッツはおろか、レディーボーデンも無い時代の話です。
おさかな♪さんのところには遊びにうかがったのですが、こっちのお返事が遅れてしまいました。失礼しました。
by stbh (2006-01-09 00:39) 

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