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Berlioz/Fantastique [交響曲(独墺以外)]

今日は近所のCD屋でバーゲンをしていたので買ったCDの紹介です。3~4枚あったと思ったのですが、3日後には無くなっていました。ラッキー。

通俗名曲、というと言い過ぎだが、かなり人口に膾炙している曲。「標題音楽の走り」としてストーリーにしたがって書かれた曲。「第九」のたった8年後に作曲されたにもかかわらず、主題の扱い、曲の構成、オーケストレイション、長さなど何をとっても古典派と全く相容れない曲。などなど、「幻想」を表現するのに使われる辞句はいろいろですが、古典派からロマン派へ移行する道標となる名曲ではあります。ストーリーのわかりやすさ・とっつきやすさや羊飼い、雷鳴、断頭台、魔女の饗宴などの描写の親しみやすさから、クラシックを聞き始めたらかならず聴くであろう曲だと思います。

でも、全曲聴こうとすると、ちょっと退屈なイメージを持ってらっしゃる方、いませんか?第4、第5楽章しか聴かない(ときどき第2楽章も聴くくらい)とか、演奏会に行って第3楽章でねちゃった(第4楽章のffで目がさめた)とか、第5楽章は途中で飽きて聴くのをやめちゃう、とか。

この録音は、そういう方にぜひお勧め。この曲に対する見方が変わります。「幻想」ってこんなに(隅から隅まで)面白かったんだ!と思えること請け合い。アマゾンでは出てこなかったので、HMVのサイトのリンクを貼っておきます。うまく見えるとよいのですが。

http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=145544

アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団、1964年5月10日のライヴ(東京文化会館、この日は「英雄」「幻想」という大胆なプログラムでした)。当時のツアーの詳細は例えばこちらをご参照ください。

http://www003.upp.so-net.ne.jp/orch/page053.html

クリュイタンスのスタジオ盤は未聴ですが、このライヴを聴けば十分なのではないか、という気がしてなりません。それほどこのライヴの全体の構成、各楽器の細かい表情、そして何よりオーケストラから伝わってくる熱気はすごいです。

冒頭の管楽器のアンサンブルから、絶妙の表情です。60年代のスタジオ盤にくらべればやや木目の粗い、ざらついた感じの録音ですが、それでも管楽器一本一本の音色がしっかり伝わってきますし、合奏になるとイイ感じでブレンドします。金管楽器のヴィブラートも独特ですが、とても心地よいです。

楽章を追うごとにハープ、コーラングレ、トロンボーン/テューバ(オフィクレイドではないと思います)と楽器が加わっていきますが、出てくる楽器がことごとくいい音です。またテンポ、フレージング、強弱、どれをとっても目をみはる(@_@)ものばかり。それが、個々の楽器だけでなくアンサンブルとしてもとても流麗で美しい。目から魚が落ちても足りないくらいです。ライヴゆえ多少の瑕疵はありますが、ぜんぜん気になりません。

この演奏を実演で聴いていたら、どうなっていたでしょう。目が回って、倒れてしまったかも(ああもったいない)。上のリンク等も見ても大評判のツアーだったようです。もう2度と聴けないのですが、このCDのおかげでその片鱗くらいはわかるでしょう。最後の音が終わるか終わらないうちに、ブラヴォーと割れんばかりの拍手です。もう少し(10秒くらい)拍手聞かせてくれてもいいのになあ、と。ライヴのCDを聴くとよく思います。マスターを止めてしまってあるのかしら。チェリビダッケのシリーズは十分な長さを収録してありましたが、こんなのは珍しい方ですよね。ぜんぜん拍手が無い「ライヴ」もよくありますし。

この録音に関しては、あえて、どの楽章が良いだのどこの何がきれいだの言いません。車の運転なんかしないで(苦笑)、集中して、全曲通して聴かなければいけません、というより、聴きたくなってしまいます。いちおう、書き終わるまで音を聴くのは車の中だけにしているので(PC入力時にスコアや資料は見たりしますが)、早く書き終えてもう一度部屋でじっくり聴きます。

クリュイタンスは、生まれはベルギーですがフランスでのキャリアが長く、さらにフランス系指揮者としてはじめてバイロイトに登場したり、ベートーヴェンの交響曲全集をベルリン・フィルと録音したりと、インターナショナルな活躍をしていた人です。

私はラヴェルの管弦楽曲集(LP4枚、廉価の分売で買いました)が愛聴盤でした(EMI)。なかなか素敵な録音だと思うのですが、例えばミュンシュみたいに豪快ではなく、どちらかといえばおとなしく繊細な印象を持っていました。でもこの「幻想」は繊細ですがぜんぜんおとなしくありません。繊細さ、優美さと、ベートーヴェンやワーグナーでも高い評価を得られる演奏のできるエネルギーやパワーを兼ね備えている名指揮者であることが、この録音で認識できました。この録音はまた、当時のコンセルバトワールのオーケストラが実演でどこまでヤッてくれるかという貴重な記録だと思います。

オーケストラも優美な、ある種なまめかしい音色です。これが「フランス色」なのでしょうか。もちろん出るとこは出ます。打楽器がところどころバランスを崩しているように聞こえますが、全体を聴けば打楽器の強弱はスコアにかなり忠実で、録音技術によるところ大なのではないかと思います。

蛇足です。「鐘のピッチが変」という指摘をいくつかのサイトで見ましたが、鐘は複雑な倍音成分を含んでいるので、聞いている場所やコンディションによって聞こえ方が非常に変化します。客席で聞いて「変だった」という証言にはまだ当たっていないので、これは何ともいえないし、またあまりこだわることではないでしょう、演奏者のウデでなんとかなることではないから(たたくポイント(打点)というのはありますが、プロならそんなものはずすわけがない)。

アンコールの2曲、「古城(「展覧会の絵」から)」と「ファランドール(「アルルの女」第2組曲から)」が併録されています。拍手しているうちにサックスの人だけ入ってきたのかもしれませんね。こういうのは本当に演奏会にいないとわかりません。「幻想」にくらべるとわりと淡々としています。サックスもそんなに破目を外しているわけではありませんが、でもいい雰囲気、なんとなくオサレな感じ。

「ファランドール」の出だしはびっくりするほど重々しく、密度が高いです。まるでブラームスの音、「幻想」とぜんぜん違います。アレグロに入ってもチャラチャラした感じは皆無で、アンコールとは思えない緊密なアンサンブルが展開され、最後は予定調和ならぬ予定爆発。とてもアンコールにしておくにはもったいない出来栄えです。

最後に、私は根が貧乏性なので、CDには多く詰め込まれていればいるほどうれしいのですが、このCDに限っては、アンコールは蛇足、というか無くてもいいんじゃないか、と思いました。それほどこの「幻想」は強烈で、これだけで世界を作っています。まだ聴いたことのない方、ぜひ聴いてください。「幻想」の世界が変わります。

追記:mozart1889さんが、カラヤンの60年代の録音についてかかれていますのでTBさせていただきます。このころはまだベルリン・フィルも「ベルリンの音」がしていたのでしょうか。


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コメント 2

mozart1889

TB有り難うございました。クリュイタンスの幻想は聴いたことがないんですが、BPOとのベートーヴェンの交響曲全集はよく聴きます。1960年頃のBPOはイイ音していると思います。
カラヤンの幻想交響曲も同様で、この時期のBPOの音が聴けます。
by mozart1889 (2005-08-31 06:35) 

stbh

mozart1889さん、TBとコメントありがとうございます。考えてみれば、70年代後半から80年代前半、廉価版で買ったレコードは多くが60年代の録音のはず。実はクラシック体験の原点なのかもしれません。リマスター処理の進歩でかなり良い音になったものもあるようですし、CDを買いなおして聴いてみたくなりました。
by stbh (2005-08-31 21:04) 

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