SSブログ

Shostakovich/Sym10 [交響曲(独墺以外)]

月曜日は体調不良でお休みして、火曜日もいまひとつ気力に欠けたため、今日になってしまいました。火、水と二日間かけて聴きました。

ショスタコーヴィチ:交響曲10

ショスタコーヴィチ:交響曲10

  • アーティスト: ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ショスタコーヴィチ, カラヤン(ヘルベルト・フォン)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1998/06/10
  • メディア: CD

カラヤンが録音した唯一のショスタコーヴィチの交響曲、とはいえDGに2回(60年代と80年代)録音しています。前にもちょっと言及しました、デジタル初期の録音ラッシュの中では、よい録音に属すると思います。この曲は緩急、強弱などのメリハリをしっかりつけないであいまいに演奏するととてもつまらないのですが、さすがにドライブ感あふれる、爽快な録音に仕上がっています。

この曲を「巨大で複雑な交響曲」と表現している評論がありましたが、第4番やいわゆる戦争三部作などに比べれば、この交響曲は楽章構成も古典的で、旋律線も単純で、わかりやすいと思います。私のこの曲の初体験は、1976年のザルツブルク音楽祭のカラヤン/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏。たしかテープがあるはずなのに発掘できないでいるのですが、それはかっこいい演奏でした。後から聴いた(旧録音の)スタジオ録音より荒削りで、終楽章など怒涛のクライマックスであったと思います。ああ聴きたくなってきた、もういっぺんしっかりテープを探してみよう。

スタジオ録音では、カラヤン一流の「計算された熱狂」という印象をまぬかれませんが、それにしてもこの録音は美しい。特に弦のアンサンブルが精緻で、泣かせます。第2楽章の「スターリン」も単に荒々しいだけでなく、旋律線や和声のディテイルが聞こえてきて、よく設計された音楽であることが認識できます。それにしても木管のトップの負担(プレッシャー)が大きいですね、この曲は。

カラヤンがショスタコーヴィチの交響曲で唯一この曲を録音したのは、ショスタコーヴィチの場合かならず音楽とセットで語られる、その時々の彼の置かれた境遇や政治的状況を無視しても、音楽的に聴衆をひきつける力があると感じたからではないでしょうか。あるいは、器楽だけで演奏できる曲であり、ソヴィエトのプロパガンダ色が強くなく、それでいて華やかな曲を選んだらこれになったのかもしれません。むろん、カラヤンがこの曲に接したときはまだ「証言」が刊行されていなかったわけですが、それでもやはり、ある種の「透明さ」「無臭さ」をこの曲に感じていたのでしょう。ではなぜ第1番を取り上げなかったか?うーん、なぜでしょうね。

カラヤンの好みはけっこう徹底していて、例えばストラヴィンスキーは「春の祭典」「ミューズの神を率いるアポロ」は録音しているのに、「火の鳥」「ペトルーシュカ」は入れていない、ワーグナーも全曲録音はリング以降だけ、バルトークも「オケコン」とか限られているし、彼一流の美学が貫かれています。でもデジタル時代になって、ブルックナーの初期交響曲やサン・サーンスの第3交響曲を入れたり、節操がなくなってしまったのも、この時代の(特にこういった必然性の薄い、あるいは単純なミスがあるまま販売された)録音にいまひとつ共感できない所以ではあります。

そう、この録音の大きな瑕疵は終楽章の最後のティンパニのD-Es-C-Hが1小節多いこと。せっかく終結に向かって突き進んできたのに、台無しです。D-Es-C-Hがばしっと終わって、最後の最後の上昇楽想に入るはずなのに、ここで世界が切れないのはあんまりではないですか。この状態はショスタコーヴィッチ、カラヤン、DG等、誰にとってもよくないと思うのですが、最新のリマスタリングで修正されているでしょうか-難しいでしょうけれど。(ちょっと興奮してしまいました、失礼)

比較的昔から気に入っていた曲なので、全音の旧版のスコアを持っています。解説を見ると「第4交響曲は作曲者によって永久に葬り去られてしまった」とされていて、この文が第4番の初演(61年)より前に書かれたことがわかります。D-Es-C-Hがショスタコーヴィチのイニシャルであることについて触れられていないのも、今から思えば驚異的です。昔はやはり情報量が少なく(あるいは偏っていて)、そのゆりかえしが「証言」のようなセンセーショナルな形になって現れてきたのでしょう。

あと50年もすれば、たとえば(第6交響曲を除く)チャイコフスキーの交響曲のように、ことさら時代背景や作曲者の境遇を考えずとも、ショスタコーヴィチの交響曲を楽しむ時代がくるでしょうか。人が人に対して弾圧をする、という行為が過去の遺物になっている時代が来ることを祈らずにはいられません。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

Schubert/UnfinishedMessiaen/Turangalila ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。