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Mayuzumi/涅槃交響曲ほか [実演]

3月9日(金)、雨のそぼ降る中、サントリー・ホールに行ってきました。

F422m.JPG

東京フィルの「オール黛プロ」です。

http://www.tpo.or.jp/concert/detail-2050.html

指揮 : 広上 淳一
合唱 : 東京混声合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

黛 敏郎 / トーンプレロマス55
(ミュージカル・ソー:サキタハヂメ)
黛 敏郎 / 饗宴
黛 敏郎 / BUGAKU
黛 敏郎 / 涅槃交響曲

東フィルは2003年2月に、今回とまったく同じプログラムを故岩城宏之の指揮で演奏しています。100周年記念シーズンにこのプログラムを再び取り上げる意図がどこにあるのか、プログラム等を見てもはっきりとはわかりませんでしたが、何にせよ、黛敏郎の作品をこれだけまとまって聴ける機会はめったにあるとは思えません。平日のコンサートはなかなか行きにくいのですが、かけつけました。

最初の2曲はいずれも20代半ばの作品で、彼が親しんだジャズ、それもビッグバンド系の音が随所に聴かれます。「トーンプレロマス55」は吹奏楽のための作品で、ミュージカルソーや特殊な打楽器(サイレン等)が出てきます。「饗宴」はかのバーンスタインも取り上げたという初期の代表曲で、前曲同様サックス群が活躍します。この2曲はいずれも「軽妙洒脱」で、生真面目にやってもあまり面白くありませんが、指揮の広上さんはじめ全員がノリノリで、オーケストラのコンサートとしては異色なくらい「かっこいい」サウンドに終始していました。2曲とも聴くのは初めてだったのですが、オーケストレーションもすごくよく鳴るように書かれていて、若き日の黛の、ほとばしる才能を感じずにはいられませんでした。

曲目が極端なせいか、はたまた天候が災いしてか、こんな貴重な演目だというのにお客さんは少なく、入りは半分か、下手をすると4割くらいかと思われましたが、それでも1曲目からブラボーがかかり、毎曲後、大きな暖かい拍手に包まれます。ああ、今日のお客さんはほんとにいいなあ、と感じました。

続いて、唯一30を越してからの作品、「BUGAKU」。これは昔の岩城/N響、最近の湯浅/NZ響のCDもあり、黛のもっとも聴かれている曲なのではないでしょうか。雅楽に用いられる楽器の音をオーケストラの楽器だけで作り出すというアイデアもさることながら、雅楽風の旋律と、いわゆる現代音楽風のパッセージが混然一体となって生まれる独特のサウンドは、初期の黛作品のひとつの頂点と言えるかもしれません-「涅槃」より、ある意味洗練されていると思います。岩城の録音で聴けるゆったりとした響きと比較して、広上の解釈はきびきびとしており、若干、前2曲の雰囲気をひきずっているかのようにも思われましたが、特に第2部の序-破-急とたたみかける切迫感は迫力があり、ラヴェルの「ボレロ」にも似た急転直下の大団円まで、一気に聴かせてくれました。

休憩時間にロビーに出ると、「この間の読響のとき(2009年に「涅槃」を演奏しています)はxxxxで…」とか、「ヴァイオリンの連中をだまして、なんとかBUGAKUをやりたいなあ」とかの声が。やはりコアなファンが多いようですね。客席に戻ると、2階席両翼の通路に譜面台とイスが運び込まれていました。「涅槃」はオーケストラが3群にわけられ、高音の「グループ1」は上手側、低音の「グループ3」は下手側の客席後方、あるいはバルコニー席に配置されるよう指示があります(通常のオーケストラは「グループ2」)。よく見ると通路の前後各1列は空席になっていました。お客さんが少ないだけではなかったのね(;^_^A

打楽器奏者のはしくれの私としては、こんな打楽器バリバリの曲ばかりの演奏会で打楽器がよく見えないアリーナ席を購入する気がどうしても起きなかったので、特殊な配置によるサラウンド効果が得られるか不安だったのですが、2階のセンターブロック席を購入しました。別働隊のちょうど間かちょっと後くらいでしたが、「涅槃」が始まり、各グループが鐘を模した和音を鳴らしはじめたところで、心配が杞憂になるとともに、これまで聴いていた録音とは全く違う、ものすごい臨場感に圧倒されました。

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上の写真はスコアの第1ページです(左側にオーケストラの配置図があります)。最初に弦楽器がうねり(16分音符)を伴う和音をはじめ、2小節目で楽譜下段の「グループ3」が、3小節目で上段の「グループ1」が和音を奏するのです。この「音がカタマリとなって飛んでくる」パワーが、実際に聴くとやはりものすごい。「N響との試演を繰り返した」というこの和音、実は録音で聴いているときはいまひとつピンとこなかったのですが、最初の音を聞いたとたん「ああ、こういうことか」と納得、あらためて黛の才能のすごさを認識しました。

全曲が鐘の響きやお経を模しているだけではなく、第1楽章や第3楽章にはウェーベルン風の点描音楽的なパッセージがあります。なかなか演奏が難しいところだと思いますが、東フィルのメンバーは難なくこなしていたようで、オーケストラの能力の高さも実感することができました。

圧巻は「全山の鐘が一斉に鳴り響く」と黛自らが形容した第5楽章。何群かに分けられたオーケストラと合唱による音の洪水の尽きることのない攻撃は、オーケストラでこんな大きい音を聴いたことはないのではないかと思うほどの大音響でした。合唱はだいたい60~70名くらい、オーケストラの大音響に負けない迫力を見せて(聴かせて)くれました。最初は着席していてfになると立ちあがるなど、細かい演出も。

終楽章「一心敬礼」の大クライマックスから急速なディミニエンドでチューブラーベルの最後の音が虚空に消え、余韻と静寂を全員が共有して、一転、ブラボーと大拍手の嵐。こうして至福の時が終わりました。

広上の解釈は全体的に明快で、特に最初の2曲はすごく楽しく聴けました。BUGAKUなどではもうちょっとこねくり回してもよかったのではないかと感じたりしましたが、「涅槃」はメリハリの効いた、聴きやすい演奏だったと思います。この人の振りは大きくてわかりやすいので、オーケストラも安心して演奏できたのではないでしょうか。鼻息もすごかったけど(笑)。

今まで行ったコンサートの中でも、一、二を争う満足度でした。出演・関係者の皆様に感謝です。いや実際、もう30年以上聴いている「BUGAKU」や「涅槃」の音が眼前で鳴るだけでも感激なのに、あのダイナミックな解釈、あの精緻なアンサンブルですから、何度も泣きそうになりました。多少寝不足だったので心配していましたが、もう一瞬一瞬、食い入るように音楽を聴いていました。

最後に、せっかくですから録音のリンクを。まず「涅槃」は、やはり音質からいってもこれではないでしょうか。

黛敏郎:涅槃交響曲

黛敏郎:涅槃交響曲

  • アーティスト: 岩城宏之,黛敏郎,東京都交響楽団
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 2010/08/18
  • メディア: CD



次に「BUGAKU」は、新世代への道しるべということであえてこれを選んでみました。

黛敏郎:シンフォニック・ムード/バレエ音楽「舞楽」/曼荼羅交響曲/ルンバ・ラプソディ

黛敏郎:シンフォニック・ムード/バレエ音楽「舞楽」/曼荼羅交響曲/ルンバ・ラプソディ

  • アーティスト: ニュージーランド交響楽団,黛敏郎,湯浅卓雄
  • 出版社/メーカー: Naxos
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: CD


代表曲の「舞楽(このCDは漢字表記です)」「曼荼羅」とごく初期の2曲がカップリングされています。

戦後日本楽壇をリードしてきた作曲家として、黛の存在は非常に大きいはずなのですが、プログラムへのご子息、黛りんたろう氏の寄稿にもあったように、特に晩年の政治的言動が災いして、没後の黛の評価は必ずしも高くなかったように思います。この演奏会などを機に、実演でも録音でも聴ける機会が増えていってほしいものです。


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コメント 2

畑山千恵子

私もそう思います。黛さんは、オペラ「金閣寺」、「古事記」を作曲していますが、どちらもドイツ語の台本によっています。この2つのオペラの日本初演がドイツ、オーストリアでの初演後15年後ですから、いかにその政治的発言が災いしたかがわかります。
とはいえ、「金閣寺」は、三島由紀夫原作の小説をもとにしたもので、三島由紀夫との交友が生み出したオペラです。黛敏郎は、1970年11月25日に起こった三島事件を契機として、政治的発言が目立つようになりました。三島由紀夫との交友がこうしたマイナス面が出てきた大きな要因ではないかと見ています。
by 畑山千恵子 (2012-07-23 15:51) 

stbh

畑山智恵子さん

コメントありがとうございます。お返事が遅くなり失礼致しました。

黛の政治的発言は三島事件が契機だったのですか。晩年の「題名」などでの発言もだんだんエスカレートして行ったのを記憶してます。「金閣寺」「古事記」ぜひ体験してみたいものです。何とか再評価の機運が高まってほしいと思います。
by stbh (2012-12-23 12:07) 

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