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Honegger/パシフィック231 [管弦楽曲]

今日はCDでなく動画のご紹介です。YouTubeで見つけました。

http://www.youtube.com/watch?v=rKRCJhLU7rs
(リンク先が切れていたので、別のところに変更しました。2011/9/15)

YouTubeで「Pacific 231」で検索すると、オーケストラによる実演の模様や画像をコラージュしたものなど多くの動画が出てきますが、ここでご紹介するのは1949年のカンヌ映画祭短編部門で受賞した、Jean Mitry監督による映画です。全編、機関車が出てくるだけなのですが、音楽は「オネゲル指揮交響楽団」とクレジットされており、貴重な「自作自演」の音が聴けるのです!

この曲は4年近く前にいちどご紹介しています。その中でオネゲルの言葉として、この曲のねらいが「音楽の運動そのものが遅くなるのと同時に、リズムが算術的に加速されたときの印象」にある、ということを書きました。しかし、実はこの言葉が今一つピンと来ていませんでした。

たしかにテンポの遅い曲頭から、音符の音価がだんだん短くなっていき、まさに機関車のように音楽が疾走し、最後で音価がだんだん長くなり停止する、という構成になっていますが、「運動そのものが遅くなる(while the movment itself slowed)」というのが実感できていませんでした。ネット上の情報を見ても、「だんだん速くなり、疾走し、だんだん遅くなる」という表現のものばかりで、どうも納得いかなかったのです。

今回、スコアを目にする機会があり、ご紹介した映画を見るに及んで、この疑問がやっと氷解しました!ちょっとくどくなりますが、お付き合いいただければ幸いです。

全曲は200小節あまり、1から17まで練習番号が振られています。まず2/2拍子、二分音符=120で曲が始まり、練習番号1(テューバの上行音形が終わるところ)で二分音符=160になり、ここから基本の音価が4拍、3拍、2拍、…とだんだん短くなり、練習番号5の5小節目で、4/4拍子に変わり、八分音符がベースになります。実はここでテンポが四分音符=152に微減するのです。

その後は、練習番号9で144に減速して三連符が主体になり、練習番号12で138、練習番号14で132と減速していくにつれて十六分音符が増えてきます。これがオネゲルのいう「運動が遅くなり、リズムが加速される」ということなのです。そして練習番号17で126となり、三連符、八分音符と基本音価が急速に増大していき、13小節目で最後の音(5拍=全音符+四分音符)に到達します。

これまで耳にした録音などでは、聴いているだけということもあってだと思いますが「テンポが微減していく」ことが実感できていませんでした。明らかに音価が変わっていく練習番号5までと練習番号17以降の印象が強かったのですが、実は、これらの部分は「プロローグ」と「エピローグ」で、その間で基本の音価がわずかずつ細かくなっていき、逆にテンポは落としていく、というのがこの曲の主眼だったのですね。

機関車が走っている間にコンスタントにだんだん遅くなる、同時にだんだん速く(短く)なる、というのはイメージしにくいですよね(細かいことを言えば、石炭を燃やしているのでわずかずつ軽くなりますが、速度上は体感できないでしょう)。だとするとこの曲は「蒸気機関車の出発-疾走-停止の描写」というよりは、より純粋な音楽上の実験、ととらえるほうがふさわしく思えます。「作曲時に機関車のことは意識していなかった」というオネゲルの言葉は、鉄道の描写を隠そうとした言い訳などではなく、掛け値なしの発言だったのでしょう。

そう思って件の映画をみると、というか聴くと、たしかに指定の場所でテンポが落ちており、他の録音などよりはこの実験意図がわかりやすいと思います。とはいえ、ただ漫然と見ているだけでオネゲルの細かいテンポ指定が認識できるかというと、難しいようにも思えます。この映画ができたのがカンヌ出展直前だとすると、作曲されてからすでに四半世紀を経た後のことであり、オネゲル自身もこの曲が「描写音楽」と理解されることを半ばあきらめてしまって、映画作りに参画したのかもしれませんね。

この曲が単に「Mouvement Symphonique No. 1」として世に出されていたら、ここまで人口に膾炙しなかったでしょう。先日ご紹介した「ヒロシマ」も作曲当初はただ「哀歌」だったと聞いています。音楽はそれ自体が語るものだとはいえ、題名というのは重要ですね。

蛇足ですが、この曲は「パシフィック231」と呼ばれていますが、本来「パシフィック」と「231」は同義(形式名と車軸数)で、スコアの冒頭には「Pacific (231)」と書かれています(例えばこちらをご参照ください)。この曲は、二重に「題名が独り歩き」しているのです!

この曲を献呈されたアンセルメは、どのように演奏しているのでしょうか?私は聴いたことがないのですが、なかなかよい選曲のCDが出ているようです。

天国と地獄~アンセルメ/フランス音楽コンサート

天国と地獄~アンセルメ/フランス音楽コンサート

  • アーティスト: アンセルメ(エルネスト),シャブリエ,オッフェンバック,フランク,デュカス,エロルド,トーマ,オネゲル,スイス・ロマンド管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2001/04/25
  • メディア: CD

 

お聴きになった方、ぜひご感想をお聞かせください。


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