SSブログ

Messiaen/Turangalila [交響曲(独墺以外)]

オリヴィエ・メシアン(1908-1992)の管弦楽作品の中で、いや全作品の中でも、たぶんもっともポピュラーなトゥーランガリラ交響曲。今回はこの演奏で。

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

  • アーティスト: ナガノ(ケント), メシアン, ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, エマール(ピエール=ローラン), キム(ドミニク)
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2004/01/21
  • メディア: CD

2000年録音、2001年の発売でしたが、2004年に早くも廉価落ちしてしまいました。高い値段で買った方には申し訳ありませんが、ありがたいことです。

チョン盤などをご紹介した以前のエントリー
http://blog.so-net.ne.jp/classicalandsoon/2005-05-27
では、曲自体についてほとんど触れていませんでしたので、少しだけ。

この曲の本質は、ジャケット解説にあるメシアンの言葉が明確に物語っています。すなわち「《トゥーランガリラ交響曲》は愛の歌、喜びに捧げられた賛歌である。(中略)つまりそれは、運命的で逆らえない愛であり、すべてをなぎ倒す力に満ちているのである。(後略:あえて全文の引用は避けてあります)」 すなわち、「トリスタンとイゾルデ」の、媚薬による、抗い難い宿命的で強烈な愛がテーマとなっているのです。

1946年にクーセヴィツキーから委嘱を受けたメシアンは、さまざまな鳥の歌をちりばめ、「移調の限られた旋法」「逆行不可能なリズム」など、持てる音楽語法の集大成として、約3年間かけて、この3管編成のオーケストラと膨大な打楽器・鍵盤打楽器、そしてピアノとオンド・マルトノのソロを要し、演奏には約80分かかる大曲を書き上げます。

全10楽章という破格の構成を持っていますが、各楽章は4つの主要主題を中心に緊密につながっており、散漫な印象はまったくありません。各楽章は以下の表題を持っています(日本語はナガノ盤に準拠)。

1. イントロデュクシオン
2. 愛の歌 I
3. トゥーランガリラ I
4. 愛の歌 II
5. 星の血の喜び
6. 愛の眠りの庭
7. トゥーランガリラ II
8. 愛の高揚
9. トゥーランガリラ III
10. フィナル

1949年にこの曲の初演(ボストン交響楽団、ピアノ/イヴォンヌ・ロリオ(後のメシアン夫人)、オンド・マルトノ/ジネット・マルトノ(楽器の発明者モリス・マルトノの妹))を指揮したのは、「気鋭の作曲家兼指揮者」レナード・バーンスタイン(1918-1990)でした。第2交響曲「不安の時代」(1947年)を発表した直後、30歳そこそこのバーンスタインは、約10歳年長のメシアンのこの作品を、どのような気持ちで指揮したのでしょうか。この曲は、結局バーンスタインのレパートリーにはならなかったようで、彼の指揮による録音は初演時のリハーサルがわずかに残っているのみのようです。

さてこのナガノ/BPOの録音、ライヴ収録ということになっておりますが、詳細な日付が記されていないので、リハーサルなどのテイクも入っているのかもしれません。録音自体はそれなりに鮮明だと思うのですが、オーケストラが一体となって響いており、ソロ楽器があまりめだたないバランスになっています。ライヴ録音なのでマイクのセッティングに制約があり、十分な音の分離は困難だったのかもしれませんが、それを逆手にとり、実際のコンサートに近い、渾然と聴こえる音場を作っているように思えます。

ネットでの評判を見ると、このCDの評価は二分されています。「鮮烈な解釈とBPOの機動力」をとるか、「せせこましくガシャガシャ鳴っているだけ」ととるか。

しかしこの曲を、これだけ完璧に近いオーケストラで聴くのは初めてです。縦の線がそろっていることはもちろんですが、細かい付点などのニュアンスを支配するリズムをすべての楽器・奏者が同じに感じており、さらに随所にあるオーケストラ全体のクレッシェンドなど、まるで全楽器がひとつになったように湧き上がってくるさまは驚異的。ソロも含めて一体となって響きを交わす。これでこそ、「ピアノとオンド・マルトノの二重協奏曲(こう聞こえる録音のほうが多いと思います)」ではなく、あえて「交響曲」とメシアンが銘打った甲斐があるというものでしょう。この録音は指揮者(そしてたぶん編集者も)の耳のよさと、奏者のアンサンブル力のいずれが欠けてもなしえない、まさにプロの仕事だと思います。

楽章によっては、たしかにもう少し余裕というか、甘美、あるいは幽玄といった雰囲気を感じたいところがあります(たとえば、第1、6楽章)。しかし反面、第5、10楽章などの早い部分は、「ジェット・コースター・ムービー」を見ているような、速度の悦楽を感じます。通して聴いてみれば全体の流れは統一されています。ここはひとつ、あまり目くじら立てずに、めくるめくスーパースピードの官能の渦に身を委ねてみてはいかがでしょう。

追記1 メシアンについては、「オリヴィエ・メシアンに注ぐまなざし」という非常に充実した情報をもつサイトがあります。現在もきちんと更新されているようですので、ぜひご覧下さい。

追記2 こちらにこの曲の改訂版について等の情報・エピソードがありました。改訂された箇所をはじめて知りました。


nice!(0)  コメント(13)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 13

mozart1889

このCD、廉価盤1000円になったときに買いました。ライヴなのに完璧なスゴイ演奏だなぁと思いました。
メシアンはふだん殆ど聴かないのですが、このCDは時々つまみ食いのように聴きます・・・・。
by mozart1889 (2006-09-16 03:17) 

stbh

mozart1889さんは、この曲お聴きにならないんじゃないかと思っていましたので、コメントいただけてうれしいです。 スピード感では随一の録音ではないでしょうか。第5、第6楽章など、私も食い散らかします(^^
by stbh (2006-09-16 19:15) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコ日本町の新聞の記事

http://www.hokubei.com/ja/news/2008/12-29
by サンフランシスコ人 (2008-12-25 04:00) 

サンフランシスコ人

マエストロ、受賞おめでとうございます!

http://www.sf.us.emb-japan.go.jp/cgi-bin/photo_gallery_en.cgi?/imgs/photo/2008/1207/large/1207_01.jpg
by サンフランシスコ人 (2008-12-27 03:27) 

stbh

サンフランシスコ人さん、お知らせありがとうございます。
この年で叙勲というのは珍しいですね。日本人作品を積極的に取り上げてきたとのこと、もし来日の折には、ぜひ邦人作品を演奏してほしいものです。
by stbh (2008-12-28 17:52) 

サンフランシスコ人

ナガノ/モントリオール

http://www.osm.ca/en/index_abonnements_les-series.cfm?ID=156#426

MYSTERIES OF JAPAN
SUNDAY FEBRUARY 28, 2010 AT 2:30 PM
TUESDAY MARCH 2, 2010 AT 8:00 PM
KENT NAGANO
conductor
SUZIE LEBLANC
soprano
EITETSU HAYASHI
taiko drum
Other soprano
to be confirmed CHRIS PAUL HARMAN
Silver threads among
the Gold (world premiere,
OSM commission)
JEAN-PASCAL BEINTUS
Onna-no-ko no uta
(traditional Japanese songs)
GIACOMO PUCCINI
Excerpts from Madama
Butterfly
ISAO MATSUSHITA
Hi-TenYu for taiko
(large Japanese drum)
and orchestra

by サンフランシスコ人 (2009-03-26 05:36) 

stbh

ふえー、すごいプログラムですね。でもMadama ButterflyもMysteryなんですね~(^_^;
by stbh (2009-03-29 18:10) 

サンフランシスコ人

日本のオーケストラが演奏しない「日本音楽」のプログラムですね。

by サンフランシスコ人 (2009-03-30 04:38) 

stbh

「太鼓協奏曲」(でいいのでしょうか?)が興味深いです。
by stbh (2009-04-03 10:37) 

サンフランシスコ人

ケント・ナガノ in サンフランシスコ

Friday, August 28, 2009
7:30 PM

http://www.foresthill-sf.org/musicaldays/

Arnold Schönberg:
Three times seven poems from Pierrot Lunaire by Albert Giraud
(German version by O.E.Hartleben)
for Voice, Piano, Flute & Piccolo, Clarinet & Bass Clarinet,
Violin & Viola, and Cello Op. 21 (1912)

Anja Strauss
Rainer Honeck
Tomoko Akasaka
Vincent Lucas
André Moisan
Xavier Phillips
Mari Kodama

Kent Nagano Conducting
by サンフランシスコ人 (2009-08-24 03:31) 

stbh

今日ですね(そちらはまだ「明日」ですが)、聴きに行かれるのですか。楽しみですね!
by stbh (2009-08-28 06:39) 

サンフランシスコ人

行きませんでした。
by サンフランシスコ人 (2009-09-06 05:05) 

stbh

そうでしたか(;^_^A
by stbh (2009-09-08 22:35) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

Beethoven/MassCTada/NakaKansuke ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。