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Beethoven/MassC [声楽曲]

トゥーランドットから、はや1週間、ずいぶん間があいてしまいました。そろそろいつもの「鑑賞記」に戻りましょう。

今回は…そうですねえ、「隠れた名曲」になってしまいますか。

Beethoven: Missa Solemnis & Mass in C Major

Beethoven: Missa Solemnis & Mass in C Major

  • アーティスト: Hans Sotin, Marius Rintzler, Ludwig van Beethoven, Carlo Maria Giulini, Dame Janet Baker, London Philharmonic Orchestra, New Philharmonia Orchestra, Elly Ameling, Heather Harper, Robert Tear
  • 出版社/メーカー: EMI
  • 発売日: 2001/01/09
  • メディア: CD

ミサ・ソレムニスとセットの2枚組です。フランスEMIの企画のようですが、ディスクはオランダ製でした。ハ長調ミサOp. 86の演奏者は以下のとおり。

Elly Ameling (s), Janet Baker (ms), Theo Altmeyer (t), Marius Rintzler (b)
New Philharmonia Chorus, New Philharmonia Orchestra, Carlo Maria Giulini

また、「かんらん山上のキリスト」も付いてくるブリリアント3枚組はこちら。アマゾンってブリリアントも扱っていたのですね。

Beethoven: Missa Solemnis; Mass in C major; Christus am Ölberge

Beethoven: Missa Solemnis; Mass in C major; Christus am Ölberge

  • アーティスト: Hans Sotin, Marius Rintzler, Michel Brodard, Ludwig van Beethoven, Carlo Maria Giulini, Helmuth Rilling, Dame Janet Baker, London Philharmonic Orchestra, New Philharmonia Orchestra, Stuttgart Bach Collegium
  • 出版社/メーカー: Brilliant
  • 発売日: 2005/12/20
  • メディア: CD

オーケストラが3つ(ロンドン・フィル、ニュー・フィルハーモニア、シュトゥットガルト・バッハ・コレギウム)併記してあるので、たぶん2つのミサ曲がジュリーニ、「かんらん山上のキリスト」がリリングの指揮によるものだと思います。違っていたらごめんなさい。

巨峰「ミサ・ソレムニス」の陰に隠れてしまい、演奏、録音、言及いずれも少ない曲ですが、作曲時期は交響曲でいうと第5、第6とほぼ同時期の、いわゆる「傑作の森」に属する作品です。「ベートーヴェンの最初のミサ曲」という呼び方をされることもあるようです。まあそりゃそうなんだけれど、最初と最後だけなのに(^^;

曲は伝統的なミサの通常文、「キリエ」「グローリア」「クレド」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」の5章からなっており、演奏には約40~45分かかります。「ミサ・ソレムニス」とくらべると小さく見えてしまいますが、それでもモーツァルトの「大ミサ」と同等程度の、大規模なものです。教会での実用が前提ではないようで、一説によるとナポレオンへの献呈も考えられていたそうです。

第1曲「キリエ」はハ長調、2/4、Andante con moto assai vivace quasi Allegretto ma non troppoというなぞなぞのような速度標語が付いています。冒頭、合唱のバスがアカペラで1小節先に歌いだすのが斬新です。ハ長調の曲想は平穏ですが、ベートーヴェンらしい、短調への特徴的な転調がいくつかあります。他の特徴としては、ソリスト4人がセットで、頻繁にコーラスと交代すること。それも、それぞれの形の旋律を歌うのでなく、全体でモノフォニックにつながっていて、あまり対比が強調されていません。するするっと、体の中に音楽が染み渡る感じ。

第2曲「グローリア」はハ長調、2/2、Allegro con brio(明快)。トゥッティの和音と上下行のスケールで始まりますが、それをあまり押し付けることなく、次の曲想に移っていき、その後もさまざまな曲想が出ては変わりしていきます。優美なテナー・ソロの"Gratias"をはさみ、アルトに先導される四重唱の"Qui tollis"からはヘ短調-変イ長調の3/4拍子。"Quoniam"からハ長調の輝かしいffに戻りますが、この部分、第5交響曲の終楽章とは違い、イ短調やニ短調の和音を進行中にはさんでいますので、押し付けがましさはあまりありません。"Quoniam"のフーガも自由な形式で書かれています。いちどハ長調で"Amen"までたどり着いたあと、もういちどpから盛り上がって、ソリストと合唱、pとf が交錯しながら再度クライマックスを築いて終わります。

第3曲「クレド」、ハ長調、3/4、Allegro con brio。緊迫したpから入りますが、すぐトゥッティのffが押し寄せてきます。弦の伴奏の音形、トランペットとティンパニのファンファーレなど、ベートーヴェンならではの力強さが感じられます。一転してAdagioの四重唱"Et incarnatus"で静まったかと思うと合唱がfで"Crucifixus"で割って入り、その後もpとf、合唱とソリストが交錯しながら音楽が高揚して行き、一瞬の空白のあと、フーガ"et vitam"となり、大団円まで突き進みます。起伏が大きく、全曲中でいちばん盛り上がる楽章だと思います。

第4曲「サンクトゥス」、イ長調、4/4、Adagio/「ベネディクトゥス」、ヘ長調、2/4、Allegretto ma non troppo。全曲中随一の静謐なアカペラで静かに歌いだされたあと、輝かしい"Pleni sunt"になります。この部分がニ長調なので、曲はイ長調ですがティンパニはA-Dが使われています。"Ossanna"のフーガはあっさりしていて、いささか強引にイ長調に終止すると、ヘ長調の"Benedictus"へ。今度は四重唱を中心にアンサンブルが展開されます。曲全体としては「ベネディクトゥス」部分の方が長く、こちらが主体で「サンクトゥス」(または"Ossanna")が額縁のような印象です。

いつものように細かいことですが(^^;、楽譜を見ると"Benedictus"の前は終止線で、"Osanna"の回帰の前後は複縦線になっています。"Osanna"の前は経過句があり音楽的にもつながっていますが、後はイ長調の和音できちんと終止しています。それでも終止線を使っていないということは、ベートーヴェンはここで(表記は無いけれど)アタッカで"Agnus Dei"に入ることを意図しているのでしょう。第5、第6交響曲の楽章間と共通する試みですね。

第5曲「アニュス・デイ」、ハ短調、12/8、Poco andante。この曲は唯一短調で始まりますが、ちょっと劇的にしようとしているのが空回りしている感があります。たとえば冒頭の木管の連打音とか、いささか曲想とアンマッチ。合唱の部分は総じて美しく、"dona nobis pacem"などは「田園」を思わせるものがありますが、いっぽう何箇所かで出てくる木管のソロはとってつけたよう(他の曲ではあまり出てきません)で、他の4曲と同時期に作曲されたのだろうか?と勘ぐってみたくなりますが、いろいろな試みが詰め込まれている(ただし、ここではやや消化不良)という点では、やはりこの時期の作品にふさわしいのでしょう。最後はキリエを回想して、静かに("pacem")終わります。

こうやってちょっと細かく全曲を通してみると、一聴しただけでは平凡に聞こえるこの曲も、いろいろな新しい試みに満ちており、「傑作の森」のメンバーとして恥ずかしくない曲であるといえます。

演奏ですが、録音は1970年ですから、ジュリーニはすでに晩年のスタイル(遅い、あまり緩急を激しくつけないテンポ運び、丁寧なフレーズ処理)になっており、ここでも音楽が停滞することなく進んでいき、あるがままに響きを鳴らして聴かせてくれています。


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