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Tchaikovsky/PCon2 [協奏曲]

チャイコフスキーの変ロ短調のピアノ協奏曲、「第1番」というからには他にも当然あるということは推測できますが、聴く機会はほとんどありません。最近、こんなCDが出ていたので、ものめずらしさに聴いてみました。

Tchaikovsky: Piano Concertos 1-3; Concert Fantasy

Tchaikovsky: Piano Concertos 1-3; Concert Fantasy

  • アーティスト: Pyotr Il'yich Tchaikovsky, Rudolf Barshai, Bournemouth Symphony Orchestra, Peter Donohoe, Nigel Kennedy
  • 出版社/メーカー: EMI
  • 発売日: 2004/06/01
  • メディア: CD

ジャケット写真をご覧になればわかりますが、前回のカルメンと同じ、EMIの2枚組廉価盤シリーズです。2枚組で価格は千円台、このチャイコフスキーはデジタル録音でもあり、買わなければいけないような気になってしまいました。

独奏のピーター・ドノホーはイギリスのピアニストで、バーミンガム市響時代のラトルと、トゥーランガリーラ、ペトルーシュカ、バルトークのピアノ協奏曲などを録音しています。伴奏はルドルフ・バルシャイ指揮のボーンマス交響楽団、1986年から89年にかけてのデジタル録音で、第2番は1986年、この全集(協奏曲3曲と「幻想協奏曲」)の最初に録音されています。毎年、夏に1曲ずつ、4年かけて録音したようです。

ピアノ協奏曲第3番はチャイコフスキーのオーケストレイションが第1楽章しか終わっていないため、チャイコフスキーの弟子タネーエフが第2、3楽章のオーケストレイションを行ったそうですが、現在、演奏(録音)されるときは普通、第1楽章だけが演奏されるようです。この曲は、その後「交響曲第7番」に再編曲されています。「もともと交響曲になるはずだった」という説もあるそうですが、どちらでしょうか。この「交響曲第7番」、もうすぐ日本初演がロシアの団体で行われるそうです。

チャイコフスキーが自信を持って書き上げたピアノ協奏曲第1番は、時の大ピアニスト、ニコライ・ルービンシュテインに「演奏不可能」などとぼろぼろにこき下ろされ、1875年にボストンで、この曲を気に入ったハンス・フォン・ビューローの指揮によって初演されています。同年のモスクワ初演のソロは上に出てきた弟子タネーエフがとりました(こちらの指揮は当のルービンシュテインだったそうです!)。しかしその後、自分のピアノソナタをルービンシュテインが弾くのを聴いて感動したチャイコフスキーは、性懲りも無くルービンシュテインに、第2番の楽譜を見てもらいます。

今回はわりと好意的にとらえてもらえたようでしたが、またもルービンシュテインには弾いてもらえませんでした-彼は1881年に亡くなってしまったのです。第2番の初演はこんどはこの年にニューヨークで行われ、翌年のモスクワ初演はまたもタネーエフがソロでした。ちなみに、このモスクワ初演をチャイコフスキーは聴いていません。

第1楽章は、オーケストラの元気なト長調のff ではじまり、すぐピアノもff の和音で合流します。ちょっと叙情的なフレーズになったあと、華麗なピアノのソロ、もう間違いなく、「チャイコフスキーのピアノ協奏曲」の世界です。ピアノは華麗なソロやオーケストラ全体とのアンサンブルだけでなく、フルートとからんだりして、ちょっと室内楽的な雰囲気の部分もあります。

「室内楽的な雰囲気」という表現は、本来この第2楽章に対して使われるべきでしょう。全楽章にわたり、延々とヴァイオリンとチェロのソロが活躍します。ブラームスの「オーボエ協奏曲」(ヴァイオリン協奏曲の第2楽章のことです、念のため)などより、もっと活躍します。そもそもソロ3人だけでピアノトリオのようになる部分が多く、モスクワ初演の際は概してその部分が不評のようでした。チャイコフスキーの死後、この曲が初めて出版されたときは、ソロ(トリオ)の部分がかなり省略されていたそうです。

まず弦楽合奏に乗ってチェロのソロから。こういう哀愁を帯びた遅い楽章は、チャイコフスキーの独壇場ですね。ヴァイオリンも加わって、次第に高揚していき、ピアノがやっと入ってきます。オーケストラとのやりとりがひとしきり続いて頂点のファンファーレ(ちょっと交響曲第4番に似てる?)に達した後、ピアノトリオを中心にオーケストラがちょこちょこっと合いの手を入れるような部分になります。

第3楽章は、第1番同様の「疾風怒濤」。華麗なテクニックをばら撒きながら、ピアノが縦横無尽に駆け巡ります。聴いただけでは何とも言いかねますが、特に第3楽章は第1番よりさらに難しいのではないでしょうか。ところどころにオーケストラの楽器が唐突にソロで目立つところもありますが、主役はやはりピアノであることに変わりありません。

全曲を通して、何でこの曲が第1番と較べてあまりに演奏頻度が低いか理由を考えてみると、まずやはり第2楽章にあるのかなあ、と感じます。「ピアノ協奏曲」とはいえヴァイオリンとチェロのソリストも用意せねばならず、それも出番が中間楽章だけ。ソリストも、自分の楽器が曲名に出てこないソロ・パート(^^;なんて、なかなかやる気にならないのではないでしょうか。

曲の長さも多少は関係するのかもしれません。第1楽章、第2楽章とも20分前後、全曲を通すと50分くらいになってしまいます。この規模のピアノ協奏曲は他にブラームスくらいですが、この曲はちょっと第2楽章の求心力が足りないかな、という感じはしますね。第2楽章が冗長に感じた、モスクワの聴衆の気持ちはわかります。

あとは曲の、特に冒頭のインパクトでしょうか。第1番はやはり他を断然引き離して独自の世界です。もうピアノ協奏曲の代名詞のようになってしまっている超有名曲ですから、やはり機会があればどなたも演奏したいと思うのでしょう。ルービンシュテインとのエピソードも、「不幸なチャイコフスキー」らしくて良いのでは。

でもね、第2番も決して悪い曲ではない、というか、あの第1番のあとに出してきたのだから、チャイコフスキーもそれなりの自信作、野心作であったはず。少なくとも「隠れた名曲」には値すると思います。ええ、この曲を知っていたら、ちょっとツウっぽいかも…。


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コメント 2

おさかな♪

この記事も楽しく拝読させて戴きました。
チャイコフスキーの曲、大好きです♪
by おさかな♪ (2006-02-17 22:09) 

stbh

おさかなさん、nice!&コメントありがとうございます。初期の交響曲、第1番以外のピアノ協奏曲やいくつかのマイナーな管弦楽曲や室内楽曲、どれもやっぱりチャイコフスキーで、楽しめます。ぜひいろいろ聴いてみてください。私ももうちょっと開拓します(^^;
by stbh (2006-02-18 01:11) 

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